子供の頃から常に家で映画が流れていた

「僕の芝居を見るために、命を燃やしてくれた人がいる」映画『静かなるドン』主演の伊藤健太郎が忘れられないあるファンとの出会い_6

──静也が思いを寄せる秋野明美(筧美和子)の台詞に、「夢ばかり追いかける前に、自分の責任を果たさないと現実逃避してるみたい」という言葉がありました。伊藤さんにとって俳優という仕事は、追いかけたい夢ですか? それとも、果たさないといけない責任ですか?

僕個人としては追いかけたい夢です。でも、役者・伊藤健太郎としては果たさなきゃいけない責任というか。例えば『静かなるドン』という作品を作るチームにとって、極端な話、僕自身の夢はどうでもいいと思うんです。撮影中は役者として静也を輝やかせることを求められています。だから、とにかく全力を出し切って責任を果たさなければいけない。

でもやっぱりスクリーンに自分がバーンと映ったときは、「わー! 出てる!」みたいな気持ちになることは全然あるし、いまだにテンションが上がります。自分の仕事を見て泣いたり、笑ったりしてくれている人たちを映画館で見るととにかく嬉しい。僕自身、映画がすごく大好きな少年でしたから。

ブラッド・ピットを見て「ああなりたいな」と思ったし、ふとした動きを真似したこともあります。

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──ブラッド・ピットを見て俳優を目指されたんですか?

俳優になるきっかけは、知り合いの紹介というヌルッとした理由なんです(笑)。でも、子供の頃から常に映画が流れているような環境で生活してきました。
幼稚園か小学生の頃に、家にあった『アルマゲドン』(1998)のVHSを見て宇宙飛行士になりたいと本気で思ったことがあって。小さい子供の夢に影響を与えるって、すごいことじゃないですか。

映画にはそれだけのパワーがある。“夢を与える”と言うのは大袈裟だけど、自分の作品を見て、同じように思ってくれる人が世界のどこかにいると思えるだけでとても嬉しいです。だから俳優の仕事は手放したくないですし、ずっと追いかけたい夢ですね。

──これまでファンの方にかけられて嬉しかった言葉は?

『アシガール』(2017)というドラマに出演したとき、イベントに80代くらいの車椅子の女性が娘さんと来てくださったんです。ご病気だったそうなんですが、「ドラマの続きを見るために毎日頑張って治療をした」とおっしゃっていて。

もちろんひとりの力でできた作品ではありませんが、自分の芝居を見るために命を燃やしてくださった方がいることはすっごく嬉しかったです。
あの瞬間は、本当にお芝居をやっていてよかったと思えました。


取材・文/松山梢 撮影/石田壮一 ヘア&メイク/竹島健二 スタイリスト/前田勇弥

<衣装クレジット>
○レザージャケット 参考商品 The Letters(レターズ)、その他スタイリスト私物

伊藤健太郎
1997年6月30日生まれ、東京都出身。2014年にドラマ『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』で俳優デビューを果たす。これまでの主な出演作はドラマ『アシガール』(2017)、『今日から俺は!!』(2018)、NHK連続テレビ小説『スカーレット』(2019)、映画『惡の華』(2019)、『十二単を着た悪魔』(2020)、『冬薔薇(ふゆそうび)』(2022)など

『静かなるドン』(2023)
関東最大規模の暴力団新鮮組のひとり息子・近藤静也(伊藤健太郎)は「ヤクザなんて嫌い、カタギとして平和に生きたい」と願い、デザイン会社で働き、イマドキの草食系男子として生きている。仕事ができないと怒られながらも、同僚の秋野さん(筧美和子)に淡い恋心を抱き、普通に働く毎日。それが静也の幸せ。しかし、そんな静也の生活が一変する事件が起きるのだった……。普通に生きたいだけなのに、新鮮組の危機に直面した静也。いったいその危機とは!? そして新鮮組の行く末は……!?

配給:ティ・ジョイ
© 2023「静かなるドン」製作委員会
前編・後編 各1週間連続上映!
【前編】5/12(金)〜18(木)【後編】5/19(金)~25(木)
公式サイト:reiwaoutlaw.com