『キャシアン・アンドー』|反乱軍誕生を静かに描く大人のスター・ウォーズ【今からでも間に合うネットドラマ|宇都宮秀幸】_1
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 ジェダイもフォースもライトセイバーも登場しない、これは異色の『スター・ウォーズ』(以下SW)である。物語の中心となるのは、特別な能力ももたず伝説の家系にも属さない、いわば普通の人々。寓話であり神話であるSWの世界を、リアリズムで描くとしたら一体どんな作品になるのか? SWファンのそんな夢想が現実となったのが今作なのだ。

 舞台は映画第1作で描かれたデス・スター攻防戦の5年前。強大な帝国の圧政下での反乱軍誕生の過程が、後の英雄キャシアン・アンドーを主人公に描かれていく。ジャンルとしてはある種のスパイもの、政治サスペンスで、SW定番の大戦闘シーンもない静かな作風のため、受ける印象ははっきり言って「地味」。では退屈かと言えばむしろ逆で、じっくりと積み上げられる地に足の着いたストーリー展開に次第に夢中になってしまう。

 今作において絶対的な善と悪は存在しない。帝国側の人物、例えばアンドーを追う監査官デドラはただの敵ではなく、男性優位の帝国において実力で生き残ろうと必死の現実的な女性として描かれる。一方、反乱軍側にも単純な正義はなく、手段を選ばぬ冷酷な男レイエルが暗躍し、反乱軍内部にも裏切りや対立があることが幾度も示されるのだ。武力に限らず思想弾圧や相互監視によって人民を支配する帝国の恐ろしさもより具体的に強調され、そこには現実の国際情勢さえ連想してしまう絵空事ではない世界がある。

 もともと誰もが楽しめる古典的娯楽映画の復権を目指したSWだが、その世界観を掘り下げることで、こんなにも生々しい大人向けのドラマが作られるとは。驚くと同時に、無名の青年が大義に目覚め英雄となる今作は、ルーク・スカイウォーカーの軌跡の再現とも言え、紛れもないSW作品であることに気づくのだ。

 最後に重厚な会話劇と俳優陣の繊細な演技がメインなのは確かだが、帝国の軍資金を狙う強奪作戦や、強制労働施設からの大脱走など、スペクタクルな見せ場もあることはつけ加えておきたい。「マンダロリアン」同様の自由な発想による新たなSWドラマをぜひ目撃してほしい。

『キャシアン・アンドー』
監督・脚本/トニー・ギルロイほか 出演/ディエゴ・ルナ、ステラン・スカルスガルド、ジュネヴィーヴ・オーライリー

映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』にも登場した将校アンドーが、反乱軍へ導かれるまでを描くSWドラマ第4弾。監督は『ジェイソン・ボーン』シリーズの脚本を手がけたトニー・ギルロイ。Disney +「キャシアン・アンドー」全12話配信中。

©2022 Lucasfilm Ltd.

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