大人気犯罪ミステリーが復活! 元・殺人鬼が出会う新たな試練
10年ほど前、筆者が夢中で観ていたドラマの一つが異色の犯罪劇「デクスター〜警察官は殺人鬼」だった。題名にあるとおり、主人公はマイアミ警察の鑑識官で、同時になんと連続殺人事件の犯人でもある。まずはその前代未聞の設定に驚かされたものだ。デクスターには絶対的な殺しのルールがあり、標的には罪もない人々の命を奪う凶悪な殺人犯たちのみが選ばれる。いわば殺人者VS殺人者の構図が物語の中心となるわけで、従来の犯罪捜査もののような「正義」が通用しない世界観は斬新な面白さを与えてくれた。
さて、前作の最終シーズンから約10年後が今作の舞台。デクスターはジムと名を偽り、雪深い田舎町で別人として生活している。殺人行為を自ら禁じていた彼だったが、かつて生き別れた自身の息子が姿を現したことをきっかけに、再び闇の衝動と向き合うことになってしまう。
このドラマが面白いのは、主人公が法で裁けぬ悪を裁く仕置き人ではなく、自らの欲求を満たすために人を殺める、れっきとした快楽殺人犯である点だ。大義名分のない純粋な殺しなわけで、デクスターはいわば「殺人依存症」なのだ。
今作は残酷で恐ろしい場面も多いが、死はあっけないものとして扱われ、時に乾いた笑いを呼ぶブラック・コメディとしても優れている。つまり主人公の犯す殺人とは、実は誰もが思い当たる、人には隠しておきたい個人的欲望の暗喩なのだと思う。善良な市民として暮らすデクスターの正体が、いつ周囲にバレるか?というスリル。それをいつしかわがことのように感じてしまうのは、秘密をもたない人間などこの世にいないからだ。
一方、今回のシーズンでデクスターが思春期の息子との関係に悩むように「家族」というテーマも前作から続く見どころの一つ。設定こそ異常だが(笑)、こちらも多くの人が共感をもって観ることができる理由だろう。人間の邪悪さを題材としながらも、実はごく普通の人生で直面する苦しみや葛藤を描いているのが「デクスター〜」というドラマである。未見の方は、Huluで配信中の前作も併せてぜひこの機会に観てほしい。
「デクスター:ニュー・ブラッド」
監督/マルコス・シーガほか 製作総指揮/クライド・フィリップス 出演/マイケル・C・ホール、ジャック・アルコット、ジュリア・ジョーンズ
犯罪ミステリー「デクスター〜警察官は殺人鬼」の約8年ぶりの続編。別人として日々を送るデクスターが新たな危機に直面する。主演は前作に続きマイケル・C・ホール。Hulu「デクスター:ニュー・ブラッド」全10話配信中。
画像提供 Apple TV+