ギミック満載のヒーロースーツで
本気の特撮マニアが戦う相手とは!?
『シン・ゴジラ』の大ヒット以降、『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』(2023年3月公開予定)と往年の特撮ヒーローが続々リメイクで甦り、『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』の上映など、過去作品にもスポットが当たっている。そんな中、本気で特撮ヒーローになろうとした人々を描くのが本作だ。
主人公は、大学時代に特撮美術研究会(略称・特美研)に所属していた実相寺二矢。この名前からしてすでにヤバイ。『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の名監督・実相寺昭雄と日本社会党の浅沼委員長を刺殺した右翼青年・山口二矢の合わせ技。その名のとおりストイックというより狂信的な特撮マニアである。
特美研の活動のメインは、ヒーローのスーツを自作すること。それも単なる着ぐるみではなく、武器や技のギミックが圧縮空気などによって作動し、特撮の動きを再現するという本格的なものだ。素材も金属や繊維強化プラスチックなどを用い、“実用性”すなわち防御力や攻撃力をもたせる。彼らはそれを「劇光服」と呼び、その危険性ゆえ運用には厳格なルールを設けていた。しかし、ある事件によって実相寺は逮捕、特美研は廃部に追い込まれたのだった。
『覚悟のススメ』の作者だけに、特撮マニアが本物の怪人と戦うことになるSF活劇かと思いきやガチの特撮マニアの物語…と思いきや、新たな展開の気配もあり予断を許さない。が、それより何より感銘を受けるのは、’70年代特撮ヒーローをモデルにした作中のヒーローたちの設定と造形、劇光服に装備されるギミックのアイデアの秀逸さだ。成田、中野、芹沢といった特美研メンバーの名前や、明らかに円谷英二がモデルの一ノ谷萬二特技監督のエピソードも特撮ファンならグッとくるはず。「神は細部に宿る」というが、そうしたディテールの描写が説得力となる。その点は特撮もマンガも同じなのだ。
初代『ゴジラ』が空襲や核兵器の恐怖のメタファーであることは有名だが、本作においても戦争や原発、いじめへの言及がある。「正義とは何か?」という問いかけも含め、それらすべてを特撮愛に収斂させた野心作。この愛に本職の特撮屋たちが応えなければ噓だろう。ぜひ庵野秀明&樋口真嗣コンビで実写化を!
『劇光仮面』
山口貴由 1~2巻/小学館
ビッグコミックスペリオール連載中
主人公・実相寺二矢の過剰な特撮愛が行き着く先は…!? キャラ名や作中ヒーローの設定からレジェンドたちのエピソードまで、特撮ファンにはたまらない魂と情熱のドラマ!
Ⓒ山口貴由/小学館