85歳の「おばあ様」は鉄製の檻の中に入れられ…

8時を過ぎると、移送艦の上のトラックが車止めを外され、タラップを下り、一台ずつ地上に並んでゆく。現場に緊張感が走り、人々がゲートに詰め寄る。カメラの望遠レンズ越しに見ると「火」というマークが貼られているのが見える。そのコンテナにミサイルが積まれていることは明白だった。

人々が慌ただしく動き始める。それとともに現場に怒りが充満してゆく。ふと気づくと警官の数が増えている。反対する市民の数を数え、無線でどこかとやりとりしているのがわかる。市民をどのように排除するか県警が戦略を立てているのだ。思えば2019年の香港警察もそうだった。大規模な警官隊が現れる前に、密偵のような警官たちが群衆に紛れ、不穏な動きをする。喉が乾いていくような時間だ。

この場所が封鎖されることを察知した一部の市民が声をかけあって、それぞれに自動車に乗り込んでいく。この場所はこの人工島にある一本道の行き止まりの場所であるため、その道路を封鎖されると閉じ込められてしまうのだ。封鎖を潜り抜けた彼らはこの後、市街地で自動車による牛歩作戦を展開することになる。

〈緊迫ルポ〉「地球上から消え失せろ!」抗議者を機動隊が排除し、陸上自衛隊石垣駐屯地にミサイルが搬入された一部始終_7
輸送艦の甲板にあるミサイルを積んだトラック。赤地に白く「火」のマークが見える。
〈緊迫ルポ〉「地球上から消え失せろ!」抗議者を機動隊が排除し、陸上自衛隊石垣駐屯地にミサイルが搬入された一部始終_8
ミサイルを運搬する自衛隊員たちが整列してトイレに向かう

9時近くなった頃、ゲートの向こうに自衛隊員たちの行進が見えた。彼らは一列に折り目正しく行進し、トイレへ向かい、また一列になり戻ってゆく。軍隊に入るとトイレにも自由にいけないのだと改めて考えさせられる光景だった。人間が個人としての主体性や尊厳、自由を失い、国家の駒となる。戦争とはそういうものだとまざまざと見せつけられた気がした。

ターミナルの中にトラックが数十台整列した。ここまですべて時間通りに行われたため、9時にゲートが開くと誰もが予見し、反対する市民たちが体に力を入れゲートに押し寄せた。激しい憤りから泣き出す者もいた。マスメディアの群れも固唾を飲み、カメラを構え、皆、眉間に皺を寄せた。

予想通り9時だった。ゲートを守るガードマンの隙間から、港湾関係者が震える声で退去を呼びかけた。「通行の邪魔になっているので退去せよ」との儀礼的な通告だ。ほどなくしてあちこちで小競り合いが始まり、それが怒号に変わっていく。

私はゲートの最前列に詰めかけた山里節子さんの横顔を撮影し続けていたが、気づいた時には機動隊が雪崩れ込んできた。市民であろうとメディアであろうと区別なく機動隊の手につかまれ、あっという間に激流のように押し流された。辺野古のゲート前では座り込む意思のないメディアは排除されないこともあるが、この日は問答無用、十把一絡げにすべての人間を排除するという冷酷さが感じられた。

「危ないですよ。気をつけてください」手荒で暴力的な排除なのに言葉だけがやたら丁寧なのは、いつもの手口だった。これには撮影した映像だけを見ると、市民やメディアが悪者かのように錯覚させる効果があり厄介だ。私も食い下がったが、あっけなく泥でも払うように排除された。

気づくと山里節子さんが機動隊に囲まれ、そのまま歩道に設置された鉄製の檻の中に入れられてしまった。85歳の「おばあ様」である。屈強な機動隊に対して彼女ひとりで一体何ができると言うのだろうか。
あまりに理不尽で非人道的な光景だと言わざるを得なかった。

混沌とシュプレヒコールの中、ミサイルを積んだトラックがゲートから出てくる。
「機動隊は一体何を守っているんでしょうか?」市民たちの叫びが虚しく響く横をミサイルたちが通り過ぎてゆく。

〈緊迫ルポ〉「地球上から消え失せろ!」抗議者を機動隊が排除し、陸上自衛隊石垣駐屯地にミサイルが搬入された一部始終_9
機動隊の強制排除。その向こうに移送艦「おおすみ」が見える
〈緊迫ルポ〉「地球上から消え失せろ!」抗議者を機動隊が排除し、陸上自衛隊石垣駐屯地にミサイルが搬入された一部始終_10
排除され檻の中に入れられる山里節子さん