由伸が150キロと聞いて「え? 人違いじゃないの?」
都城高校への進学が決まり、現役時代以上に野球に真剣に取り組むようになった山 本少年。その成果はすぐに表れる。夏までは120キロそこそこだった球速が、中学を卒業するころには130キロに達するまでになっていた。
「こんなに成長するんだ、とビックリしました。チームで二枚看板を任せていた馬迫には悪いですけど、卒業時点では正直、ふたりの間にはすでに実力差があった気がします」
ともに投手として競い合ったライバルに差をつけるほどの急成長。ただ、それでも東岡山ボーイズの指導者たちは、「さすがにプロに行くとは思わなかった」と語る。
「中学を卒業して、宮崎に行ってからは試合も見れませんし、噂で話を聞く程度です。だから2年くらいして『由伸が150キロ出したらしいよ』と聞いても
『え? 人違いじゃないの?』ってね(笑)。3年になって、ドラフト候補生と言われるようになってもピンときませんでした。中学時代の由伸と、話だけを聞く由伸に差があり過ぎてね」
ドラフト当時は、すでに『指名される』という情報が入っていたので、指導者たちも期待しながらその結果を見届けたそうだ。
「結果的に4位でしたけど、事前にはもう少し上位でという話も聞いていたんで『まだ指名されないんか』とドキドキしていました。いざ指名された瞬間は、感無量というか、やはり感慨深いものがありましたね」
プロ入り後は年を追うごとに成績を上げ、あっという間にプロ野球界のトップまで上り詰めた。
ただ、山本由伸とチームの関係は、今もあのころのまま続いている。
「正月に帰省したときには顔を出してくれます。今や沢村賞投手で金メダリストなので、こっちもどう接していいか一瞬戸惑いますけど、いざ会ってみるとあのころの笑顔は全然変わっていないんですよ。
今、チームにいる子どもたちにとってはもちろんあこがれの大先輩で、ちょっと話しかけるのも緊張するみたいですけどね。子どもたちの前でキャッチボールをしてくれることもあるんですけど、みんな遠くから『すげー』って言いながら見つめていますよ(笑)。
もっち近くで見ろ!って言っても遠慮しちゃってね。それくらい、あこがれだし雲の上の存在ですよね」