「返却事業は期限を切るものじゃないんだ」
センターが保管する写真の中には、傷や劣化などが激しい写真もたくさんある。そこで秋山さんは2019年頃から、写真の返還というより、むしろ綺麗な写真を集める運営方針へと舵を切ったという。
「例えば複数人が写る1枚の中に、我が子をみつけて、その写真が欲しいとおっしゃる方がいます。私たちもなるべく傷んだ写真ではなく、綺麗な写真を差し上げたい。ですから、同じ集合写真を持っている方にお声がけさせていただいて、綺麗な写真を提供してもらうなどし、それをプリントして差し上げています」
ある人は、祭りの光景を撮った1枚の写真の中に、米粒ほどの大きさの人を見ながら、こう言ったという。
「これ、お父さんだ」
同じ祭りを撮った別の写真があれば、そこにお父さんがいるかもしれない。そんな探し方ができれば、利用者にとってもうれしいに違いない。
ある80代の女性は、写真を探しながら昔を懐かしみ、自分の女学校時代の話を滔々として帰ったそうだ。
写真は記憶を呼び起こすトリガーになる。こうした写真が失われると2度と同じものは手に入らない。だが一方で、写真を見ることで悲しみが一気によみがえる人がいるのも事実だろう。
「もちろん忘れることも大事。人によって考え方は千差万別です」
そう話す秋山さんは、ある返却会の場でこんな体験をしたという。
「ある方に思い出の品を返却したとき、『今は受け取りたくなかった』とおっしゃられたことがありました。その時に、返却事業は期限を切るものじゃないんだって思ったんです。品物をお返しするとき、『いつまでに探しに来てください』『ここに受け取りに来てください』と言われるのが過酷な方もいるんだと」
探したいと思う気持ちになれたときに、思い出を見つけだせばいい。確かに、思い出を見つけるタイミングは人それぞれ。被災者の思い出は期限で区切れるようなものではない。
交付金が打ち切られた今も自主財源でセンターを維持している秋山さんが、この12年で「何も変わっていない」と話した意味がわかった気がした。
同センターでは今、写真をオンラインで閲覧できるようにする取り組みをすすめている。
そして現在、写真約7万4000枚、物品2400点が、持ち主を待っているという。
取材・文/甚野博則
集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/Soichiro Koriyama