「コソボ代表は全ての民族で戦うんだ」

木村 オシムさんがジェフから日本代表の監督になり、その後、祖母井さんは、フランスのグルノーブルのGMになられました。祖母井さんは、そこで監督に、ボスニア人のバジダレビッチさんを起用されていました。なぜ、バジダレビッチさんだったのですか? 彼もオシムさんの教え子ですよね。グルノーブルに在籍していた松井大輔選手が『監督がボール回しをするとめちゃくちゃ上手い』と言っていました。

祖母井 オシムさんとも相談をしたのですが、人間的な部分と監督としての実績も申し分がない。僕は人間的に信頼できる人とやりたいっていうのがあって、自分が信頼できるバスダレビッチさんに監督を頼みました。

元GMが明かす「オシム日本招聘の真実」。才能あふれる旧ユーゴのサッカーとは?〈祖母井秀隆×木村元彦〉_5

木村 僕が、2008年にコソボ取材を終えて、フランスに向かって祖母井さんに会いに行ったときにバスダレビッチ監督を紹介してもらいました。そこでちょうどこの本の中に出てくるファデル・ヴォークリさんという、アルバニア人でコソボサッカー協会の会長に会ってきたことを彼に話したら「ユーゴ代表時代、ヴォークリと俺はメチャクチャ仲が良かったんだよ」と言っていました。

ふたりはボスニア人とアルバニア人ですけれどね。コソボのアルバニア人は、当時はユーゴ国内ですごく差別されていたんですけど、オシムさんが代表監督の時代に、「それがいい選手だったら、俺はコソボのアルバニア人で11人そろえる」と言っていた。

祖母井 オシムさんの名言ですよね。

木村 その後、本当に、1987年ユーロの予選、北アイルランド戦で、オシムさんに呼ばれたヴォークリが、2ゴール決めたんですよ。そして彼は後にコソボのサッカー協会の会長になると「コソボはセルビア人とアルバニア人の対立が酷いけれど、最後まで全民族に門戸は開けておく。コソボ代表は全ての民族で戦うんだ」と宣言しました。

オシムイズムですよね。それをずっと言っていたのですけど。ロシアW杯予選が始まる5日前に、亡くなったんです。オシムさんや、ヴォークリの、こうした意志を知って欲しいということもあって、その追悼も兼ねて書き上げました。ぜひ多くの人に読んでいただければと思います。今日はありがとうございました。

元GMが明かす「オシム日本招聘の真実」。才能あふれる旧ユーゴのサッカーとは?〈祖母井秀隆×木村元彦〉_6
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写真/村上庄吾 AFLO


2023/2/4 『コソボ 苦闘する親米国家  ~ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う~』 発刊記念イベント ゲスト  木村元彦さん x 藤原辰史さん

開催日 : 2023年2月4日 土曜日
時間 : 16:00~18:00 

※隆祥館書店多目的ホ-ル(大阪市)からリアル&リモ-トで配信
(要予約・事前購入制とさせていただきます。申込み順)

詳細は隆祥館書店ホームページより

コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う
木村 元彦
元GMが明かす「オシム日本招聘の真実」。才能あふれる旧ユーゴのサッカーとは?〈祖母井秀隆×木村元彦〉_7
2023年1月26日発売
1,980円(税込)
四六判/256ページ
ISBN:978-4-7976-7420-0
ベストセラー『オシムの言葉』の著者、木村元彦が描く「旧ユーゴサッカー戦記」シリーズの決定版。旧ユーゴスラビア7つ目の独立国として2008年に誕生したコソボ。1999年のNATOによる空爆以降、コソボで3000人以上の無辜の市民が拉致・殺害され、臓器密売の犠牲者になっていることは、ほとんど知られていない。才能あふれる旧ユーゴのサッカーを視点の軸に、「世界一の親米国家」コソボの民族紛争と殺戮、そして融和への希望を追う。サッカーは、民族の分断をエスカレートさせるのか、民族を融和に導くのか……!?
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