今年はどんぐりの大凶作の影響もあって、北海道や本州でクマの出没が相次ぎ、人里での多くの目撃情報や、5人の死者、180人のケガ人を出すなど、熊害は環境省が統計を取り始めて最多ペース(10月末時点)となっている。
これに伴い、クマの駆除件数やそれに対するクレームの数も増加している。10月4日に秋田県美郷町でツキノワグマの親子3頭が作業小屋に侵入し、24時間ほど立てこもったすえに銃殺された事件では、駆除にあたった町役場を中心にクレームの嵐となった。
「『かわいそうだろ』『なぜ殺すんだ』といった内容がほとんどで、なかには感極まって泣きだしたり、『クマと一緒に死ね』などと強い言葉を使ってくる人もいたそうです。クマ被害のない地域からの連絡も多く、もはやただの憂さ晴らしのための抗議と思えるものも少なくないようです」(情報番組ディレクター)
「今度クマが人を殺したらお前ら擁護派をヤッてやる!」クレーム殺到に困惑するクマ擁護派。環境団体代表が主張するクマ被害急増の「本当の理由」
地元猟友会や自治体がやむを得ずクマを駆除したとの報道がされると、必ず殺到するのが「クマを殺すな」といったクレーム。だが昨今はそのクレームに対してもバッシングが巻き起こる連鎖が起きている。クマを擁護するあまりに誹謗中傷の的となってしまっている環境保護団体「日本熊森協会」の森山まり子名誉会長に話を聞いた。
盛り上がる“クマ擁護派”叩き

ツキノワグマ(イメージ写真)
これに対して佐竹敬久秋田県知事は10月26日の定例記者会見で「(クレーム電話は)すぐ切ります。これに付き合ってますと仕事ができません。業務妨害です」と発言。11月6日の記者会見でも「(電話をかけてくる人は)感情論が多い。理解を得られるように国が行動をとってほしい」と、自治体としてこれらの抗議に毅然とした態度で対応する意思を表明した。
「このこともあって、クマ被害の多い東北各県へのクレーマーからの電話は、10月中旬をピークに減っていったのですが、その一方で最近、ネット上では“クマを擁護する人”叩きが盛り上がっている印象です」(同)
ターゲットの筆頭となっているのが、クマと棲みわけ、共存できる社会を目指している一般財団法人「日本熊森協会」だ。
「熊森協会からはクレームの呼びかけなどしていない」
同団体の名誉会長、森山まり子さんは、10月下旬配信のネットニュースのインタビューで「クマこそ被害者」「(人的被害対策として)どんぐりを撒けばいい」などと発言。これが大炎上へとつながった。
「(あの記事が出てから)クレームの電話はものすごいですよ。『お前らが役所にクレームを入れてるんだろ!』、『クマと共存したかったらお前が全部引き取れ』といったものや、『今度クマが人を殺したらお前らを殺してやるぞ』といった脅迫まがいの電話やメールが一日中くるようになりました。“クマと共存できる社会の到来”を訴えているのはウチ(日本熊森協会)しかいないので、おそらく美郷町役場に電話したのもウチの呼びかけだと決めつけているのでしょう」

秋田県美郷町に見られるクマ出没注意の看板(美郷町公式Faceboookより)
日本熊森協会では、およそ27年の活動のなかで、発足当初は会員たちに抗議の電話を呼びかけたこともあったが、現在ではそうした呼びかけをすることはないという。そもそも熊森協会の会員には、自分の発言に責任を持たせるためにも、電話の際に協会名と本名を名乗ることをルールにしているという。
「私が美郷町に確認したところ熊森協会と名乗る人からの連絡はなかったそうです。それなのに、うちがクレームを入れてると決めつけて、匿名電話で罵倒してくる。今の社会って誰かがバッシングを受けたら、みんなが集団リンチのように一斉に叩いてくるじゃないですか? それとまったく同じで、ウチに電話をかけてくる人たちもただ罵倒してストレスを発散したいだけのように思えます。なんだか悲しくなりますよね……」
ちなみに森山さんは、美郷町の親子グマ殺処分の件で一度だけ町役場にアドバイスのつもりで電話を入れたという。

動物園で見るとかわいいのだが…
「猟友会(実際には美郷町鳥獣被害対策実施隊)の人たちに囲まれたことで、ツキノワグマの親子は『やばい、人間に見つかった。どうしよう』と完全にパニックになっていたように思います。テレビでは『小屋に逃げて立てこもった』と報じられていましたが、おそらく怖くて出てこられなくなっただけなんです。だから私は美郷町役場に『こんな時は、小屋のちかくに赤外線モニターを取りつけて、2人ぐらい残してみんな離れてください。地図を確認したら山へのクマの帰り道には人家はないので、夜、扉を開けておいたら一目散に山に帰りますよ」と伝えました。
「クマ被害の本当の原因は人間」
また、クマの生態についてはこう言及する。
「誤解されている方も多いですが、クマはものすごく臆病な動物で、以前は人と遭遇しないように山奥で生活していました。よくクマは人間の食べ物を知ると味をしめて戻ってくるなんて言われていますけど、そんなことはありません。
日本熊森協会では、5歳まで野生で育ったクマを保護飼育していますが、冬ごもり前のこの時期は、目の前にリンゴや柿といった果物を置いてもどんぐりしか食べません。人間の勝手な思い込みはやめてほしいんです」
そう肩を落とす森山さんは、今、クマによる人身被害が最多ペースになっている理由をこう分析する。

今年7月、北海道で駆除された“最凶熊”OSO18(提供:北海道釧路総合振興局保健環境部環境生活)
「自然界は人間の頭では計り知れない世界である上、わからないことでいっぱいですが、今年のどんぐりの大凶作だけが原因ではありません。なぜなら今までもこうしたどんぐりの大凶作年はありました。
本当の原因は、戦後、クマたちの生息地であった広大な天然林がスギなどの人工林にされたり、道路やダムなどの開発で破壊されたりしたこと、近年の急激な温暖化によって、受粉してくれる昆虫が激減したことです。その結果、今年は山ぶどうなどの液果(えきか)まで大凶作になっています」
これら原因の中心にいるのが“人間”という存在だという。
「最近は、さらに輪をかけて、広大な森林を伐採してメガソーラーを設置したり、尾根筋に巨大風車を建てたりと、人間の都合で山をどんどん開発し、クマの食料の大飢饉を引き起こし、その結果、クマは過疎化した人里どころか市街地にまで餌を求めて降りてくるようになりました。
自然の森は密閉状態で初めて存続できるのに、勝手に“穴”を開けてしまったら乾燥してしまいます。ウチの団体は『祖先がしていたように、人間は水源の森である奥山から一歩下がれ』と主張しています。これ以上クマによる被害を増やさないためには、当面は当協会がしているように、家周辺のクマの餌になる物の除去や、クマが潜める藪の刈り払いなども必要です」
クマを中心に巻き起こる主張とバッシング。まさか自分たちが人間社会にこのような争いもたらしているとは、クマたちは夢にも思っていないだろう。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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