10月22日まで行われた韓国最大の国際航空宇宙&防衛産業展示会「ソウルADEX 2023」。550社の軍事関連企業が参加し、多くの軍関係者やメディアが見守るなか、韓国の国産超音速戦闘機KF-21ポラメ(若鷹)が、初の公開飛行を行った。
韓国が“悲願”の国産戦闘機KF-21を初披露。「アメリカ頼み」だった日本は航空技術でも韓国に追い越されてしまったのか?
10月22日まで、韓国・ソウルのソウル空軍基地で開催されたエアショーにて、韓国の悲願ともいえる国産超音速戦闘機KF-21ポラメが初の公開飛行を行った。防衛産業関連の輸出額が前年の2倍以上と韓国の兵器産業が好調だ。
防衛産業関連の輸出額が右肩上がりの韓国

今回、初のお披露目となった韓国の国産戦闘機KF-21(撮影/布留川司)
尹錫悦大統領は開幕式で同機の前で「援助と輸入に依存していた国がいまや、最先端の戦闘機を製造して輸出するほどに飛躍した」と、57ヵ国・地域から集まった116人の代表団の前で熱く演説。
全世界の自走砲市場の半分を占める「K9」戦車や西側の評価の高い「K2」戦車、長距離地対空ミサイル(LSAM)など、計10種類の韓国産兵器についても言及した。
韓国の防衛産業関連の輸出額は約2兆5900億円(2022年度)で、前年の2倍以上。ロシアのウクライナ侵略などで各国が防衛強化に動いたことが追い風となった。尹大統領は2027年までに世界の武器市場シェアで占有率5%を超え、米国、ロシア、フランスに続いての世界4位を目指すという。
KF-21は、KAI(韓国航空宇宙産業)が主体となって開発中の「第4.5+α」世代の戦闘機だ。その性能は「第4.5世代」として現在活躍するEU開発のユーロファイター・タイフーンやフランスのラファールなどに匹敵するが、それに満足せず、いずれは米中露が保有する「第5世代」のステルス戦闘機に発展させるとの目標を掲げる。
現存の韓国の戦闘機F-4D/EファントムIIとF-5E/FタイガーIIの後継機体として120〜250機が生産される予定で、開発費約8260億円の20%は2016年から共同開発に参加したインドネシアが負担し、その見返りとして開発終了後、48機を同国内で生産することが決まっている。
また、今年の5月にはポーランドが共同開発に、9月にはアラブ首長国連邦が開発資金の分担に意欲を見せるなど、世界各国の軍高官や防衛産業の関係者がいまもっとも注目する機体となっている。
2026年にも量産開始か
現地を取材した戦闘機に詳しいカメラマンの布留川司氏が熱く語ってくれた。
「昨年の10月の展示会ではメーカーのある泗川(サチョン)のテスト飛行場で地上展示されただけでした。ところが、今年は目の前で実機が初飛行をしただけに、インパクトがありました。今回飛行したのは6機の試作機のうち、もっとも新しい6号機(複座型)です。
同時に飛行したF-22ラプターやF-16ファイティング・ファルコンの派手な飛び方に比べると、KF-21は急旋回やロールなどの機動は見せたものの、まだ量産体制に入っていないこともあってやや無難な飛行だったと言えます。
ただ、軍関係者がほとんどで来場者がKF-21の飛行を冷静に見守っていたトレードデイと違い、一般来場者が中心のパブリックデーでは自国の国産機の名前がアナウンスされると会場から小さなどよめきが起きたり、飛行終了後に拍手喝采するシーンが見受けられました」

初めて展示飛行を行ったKF-21(撮影/布留川司)
エンジン始動の際も圧縮空気と電源を供給する支援機材を使い、滑走する前も機体各部が正常に動くかどうかの確認をパイロットと地上整備員(KAIスタッフ)が入念に行っていたという。
布留川氏が続ける。
「スタッフによれば、その慎重さは『Under Development(開発中)』のためということでした。KF-21は昨年の7月に初飛行したばかりで現在6機で飛行試験や性能、不具合を確認しているところです。今後、2000回以上の飛行試験を行い、2026年中にブロックI(対空戦闘限定)、28年までにブロックII(マルチロール任務)の量産を始める予定です。
ブロックIIIとして『第5世代』戦闘機に不可欠な要素のステルス性を持つためには、レーダーに反射しないように兵装(ミサイル等)を機体胴体内部のウェポンベイに格納しなければなりません。その部分はブロックIとIIの機体の簡単な改修ですまない部分があるため、これから開発していき、それを目指すという段階です。
また、今回ステルス性とは別に、無人戦闘機との連携したシステムが発表(構想段階)され、独自の方法での現代戦への将来の対応方法が模索されているようです」
日本の「第6世代」戦闘機の自衛隊配備は2035年前後
KF-21は全長16.9m、全幅11.2m、全高4.7m、乗員1/2名で、F-35とほぼ同じサイズだ。最大積載量7700kg、エンジンはアフターバーナー付きのF414-GE-400K2発で、最高速度はマッハ1.81に達する。高い性能を持つとされる国産のAESAレーダー(アクティブ・フェーズド・アレイ)、さらには欧米の空対空ミサイルやレーザー誘導爆弾など、飛行制御や電子戦装置は最新のものが搭載される予定だ。
いずれにしろ、韓国にとってKF-21は悲願の国産戦闘機となる。金大中大統領が自国での戦闘機開発計画を打ち出したのは01年のことだった。開発資金不足もあり、政府内では戦闘機は輸入したほうがコストがかからないという意見も根強く、プロジェクトは何度も立ち消えそうになったという。

輸出を含め、兵器産業が好調な韓国
ただ、戦闘機本体やその装備のトラブルに長年泣かされてきた韓国にとって、米国などから輸入するだけでは機体のブラックボックス化はいつまでたっても解消しない。そのため、反論を封じて自国開発へと大きく舵を切ったというわけだ。
この間、韓国は米ロッキード・マーチン社の技術支援を受け、「第4世代」のFA-50という軽戦闘機を独自開発し、輸出も順調に推移するなど、着実に航空技術に磨きをかけてきた。
同じ時期、我が国日本でも韓国同様、国産戦闘機開発の機運が高まっていた。しかし、F-2戦闘機はF-16をベースにした日米共同開発へと、「第5世代」戦闘機も米国からF-35ライトニングⅡを購入して間に合わせることとなり、その機運は萎みがちだった。
ようやく、2020年末に「第6世代」の次期戦闘機を英国、イタリアと共同開発することとなったものの、自衛隊への配備予定は10年以上も先の2035年前後だ。
「世界4位の武器輸出国をめざす」
こうした日本の現状を見るにつけ、航空技術は自国による絶え間ない開発と生産を経てこそ発展するものだと痛感せざるを得ない。

韓国も日本同様、F-35をすでに40機購入し、さらに今後、最大20機を導入する計画だという。ただ、F-35は高額なので、購入機数はどうしても限られてしまう。そのため国防に必要な機体数を確保できず、韓国空軍の機体更新はおぼつかない。
また、機体の整備や部品の供給など、兵装の問題が出た場合、輸入だけに頼ると安全保障上、予期しないトラブルも発生しかねない。輸入先国が自国のニーズを聞き入れてくれるとはかぎらないからだ。為替変動で自国通貨安となれば、貴重な外貨が外国に流出するリスクもある。
そこに自国開発のハードルは高いとはいえ、国産戦闘機がもうひとつのオプションとしてあれば、購入先国の意向に左右され、自国の安全保障に悪影響が及ぶリスクは最小限に抑えられる。
兵器の価格は本体の値段が3分の1、兵器が退役するまでの改修費やアップグレード、ソフトウエア更新などの運用コストが3分の2を占めるとされる。KF-21の価格は輸出を含む生産数次第となるが、少なくとも運用コストはF-35の半分を目指すとされている。その低価格を実現するには開発と輸出のバランスをとりながら、国内の軍需関連産業の育成を進めていくことが必要だろう。
尹大統領が世界4位の武器輸出国をめざすと豪語するほど、順調な韓国の兵器産業。この「国産超音速戦闘機」プロジェクトの成否がその野望実現の試金石になるのはまちがいない。近い将来の輸出市場も含めて韓国のポラメ(若鷹)の動向を今後も注視していきたい。
文/世良光弘 写真/shutterstock
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