――村上さんは2018年にグラビアを引退していますが、介護の仕事を始めたのはまだ現役グラドルだった2015年だそうですね。介護の仕事に興味を持ったきっかけは?
村上友梨(以下、同) 14歳でグラビアデビューして、19歳のときに認知症を患っていた祖母がデイケアサービスを利用中に転倒し、それがきっかけで数ヶ月後に亡くなってしまったんです。
私はおばあちゃん子だったので、すごくショックで。そのときにどんな介護がベストだったんだろうか、とか介護の重要性について考えるようになりました。
――身近な人の事故がきっかけだったんですね。
それと週刊誌の取材で「ハマってるものは?」とか「何に興味があるか?」と聞かれてもコレって答えられない自分が嫌だったのもあります。それで、おばあちゃんの死からずっと頭の中にあった介護の仕事に実際に関わってみたいと思い始めました。
それに、いつまでもグラビアだけでは生きていけないという焦りもあって……だったら「実際に介護の仕事をしてみよう」と。
元グラドル村上友梨さんが介護福祉士になっていた「あなたでなくてはだめなのと言ってもらえた瞬間が最高」「介護を芸能スキャンダルのみそぎの場としてほしくない」
総務省統計局によると、2040年には65歳以上の老年人口が、人口全体の35.3%にあたる3921万人となり、ピークになると見込まれる。しかし、高齢化社会とは切っても切れない介護業界は深刻な人材不足や資格試験の要件見直しなどで揺れている。そのなか、元グラビアアイドルの村上友梨さん(31歳)は現在、介護職に就きながら、フリーのタレントとして介護の仕事の実情を発信している。「介護の仕事は天職」だという彼女は介護職のマイナスイメージや芸能人の贖罪介護のイメージを変えたいと話す。
先輩の「すぐ辞めるでしょ」の言葉に奮起

――最初は、副職で介護を始めたのでしょうか?
はい。まずは自分に合うかどうかボランティア感覚で、認知症対応型共同生活介護のグループホームでアルバイトを始めました。
でも(現場の)先輩からは「どうせすぐ辞めるでしょ」と言われ、雑用みたいなお仕事しかさせてもらえず、それが悔しかったんですよね。
介護の仕事をきちんとするには資格が必要だと思い、初任者研修と実務者研修を受けました。
――グラビアの仕事をしながらは大変ですね。
初任者や実務者研修は講習を受ければ取得できるものですが、この資格を取ると食事介助ができるようになるんです。
そのころから「この子、本気なのかな」と思ってもらえるようになったみたいで、もっと信用してもらいたい、この仕事にもっと深く関わりたいという気持ちにどんどんなっていって、3年の実務経験後に受けられる介護福祉士の国家試験を受けました。
グループホームと有料老人ホームでの介助の違い
――そのころから介護福祉士を本職にしようと?
当時はまだ芸能と介護は半々の気持ちでした。
とにかく介護業界のイメージを変えたかったので、元グラドルで介護士という立ち位置で、喋りは苦手だけどバラエティなどに出られないかと事務所の方にも話していたんです。
でもコロナ禍となってしまい、事務所も大変で私の路線変更に力を入れるどころではなくなってしまって。
――自分で発信したほうが早いと。
ちょうどコロナ禍でSNSでの発信力が強くなり、これはもうテレビにこだわらなくてもいいのかなと。事務所は2021年いっぱいで退所し、今は完全にフリーです。

――今も最初に働いたグループホームにお勤めなんですか?
最初のグループホームでは6年間働きました。
今はサービス付き高齢者向け住宅兼有料老人ホームという珍しい施設でパートとして働いています。
ここはグループホームと違い、認知もはっきりとされている方が多い印象です。
――以前のグループホームとは働き方や使う体力、意識もまったく違いますか?
全然違います。グループホームは体力面で大変でした。20代のころでしたが、起き上がれない方を起こす動作などで腰を傷めてしまい、一時期はコルセットしてしのいでいたほどです。
ただ、今の施設では体力や力よりも、とにかく神経を使いますね。

――どのように?
例えば、グループホームではお風呂嫌いな方でも「体重を測りに行きましょう」と誘って、その流れでお風呂に誘導するテクニックは必須でした。
でも有料老人ホームではそんなごまかしなんてもってのほか。その方のバックボーンや性格はもちろんのこと、内に秘めた感情を読み取ってのコミュニケーションが何よりも大事なんです。
ここで働き始めて1年半になりますが、最初の3ヶ月は人生で初めて眠れない夜を過ごしました。
お尻を触られたり、いきなりビンタをされたことも
――これまで、具体的にどんな苦労を経験したんでしょう。
以前のホームでは、お尻をポンっと触られたり、お風呂介助のときに「大きくなっちゃう」とか言われたり、いわゆるセクハラみたいなことがありました。でも、そんなのは全然気になりません。そう思えるようになったのもきっかけがあって。
――といいますと?
おばあちゃんのお食事介助中、スプーンが落ちそうだったからサッと取ろうとしたんです。
そうしたら、私の顔が目の前に急に現れてびっくりしたのか、おばあちゃんからいきなりパチーンとビンタをされて……。
すごくショックだったんですが、先輩に聞いたら「驚いて叩いただけで深い意味はないと思うよ」と言うんです。それ以来、そうしたことがあまり気にならなくなりました。

――おじいちゃんは目の前にお尻があったから触っただけ、と。
はい(笑)。けれどそういった高齢者をご家族だけで見るのは本当に大変です。
入居者のご家族が「私、ここにお母さんが入ってくれたおかげで幸せなの」と感謝してくださるんです。家にいたら「さっさと寝てくれ」と思うところを、ホームに入れてるからこそ「お母さん、今ごろどうしてるかな」と心配できることが幸せだって聞いて、本当に、介護職は大事な仕事だと思ったんです。
――去年11月、夫が老老介護の末に車椅子の妻を海に突き落とすという痛ましい事件がありました。これも介護の手を借りていたら起きなかったかもしれない、と思うと、いたたまれませんよね。
私たちは介護する方ご本人だけでなく、そのご家族との連携やコミュニケーションがとても大事です。
支援者の中には「介護を自分でやらないといけない」という強いこだわりを持つ方もいます。そういう方に対して内に秘めた思いに耳を傾けることが大事だと思います。

――村上さんはやりがいを感じているかと思いますが、介護職の低賃金問題は長く議論されています。2022年2月に介護士や保育士を対象に月額9000円という賃上げが行われましたが、物価高騰が続くなか、自身の賃金への満足度はいかがでしょうか。
私はずっとパートの立場なので、給料はどんなにがんばっても月給20〜25万円です。社員の方ですら、よくて手取り30万円ぐらいだと思います。
幸い、グラドル時代のファンの方がいてくれているので、動画配信などでお小遣い稼ぎをして何とか不足なく生活できています。
スキャンダル贖罪のための“みそぎ介護”に思うこと
――“低賃金&キツい”というイメージでは、人材不足も解消されません。村上さんはどのように介護のイメージを変えていきたいですか?
介護職はとても尊い仕事だというイメージに変えていきたいですね。
要支援者やそのご家族のご負担を減らして、みんなの心を穏やかにできる大事な仕事なんだと。
――また、芸能界と介護のつながりでいうと、不祥事を起こしたタレントが贖罪のために介護に携わるような風潮もありますよね。
どうしても“みそぎ感”がありますよね。
もちろん、介護の現場に有名人がいらっしゃれば、「テレビに出てる人だ」とスタッフも入居者も明るくなることはあります。
でも、苦行だと思われている介護の仕事をすることで、イメージ改善に努めるみたいな贖罪として関わられるのは、少し悲しいですね。
介護に携わるなら、もっと前向きな気持ちで来ていただきたいです。

――今後の目標はありますか?
今年の9月で介護の実務を丸8年間やったことになるので、そのあたりでいったん区切りをつけて、それ以降は介護に関わる営業職や派遣などの裏方の業務にも携わってみたいと思ってます。その後は……とても大きい夢になるんですけど、いずれは自分が目指す介護施設を作りたいです
――どのような施設でしょうか?
利用者さんは保育園の子供たちが遊びに来たり、動物に触れ合ったりすると、とても笑顔になるんです。だから保護犬や保護猫といった動物保護施設と保育園、それらの施設と連携する総合介護施設を将来つくれたらと思ってます。
壮大すぎる夢ですけどね(笑)。

©村上庄吾
――最後に、介護職のやりがいは?
なかなか心を開いてくれなかった利用者さんに「あなたでなくてはだめなの」と言ってもらえて信頼関係が築けた瞬間でしょうか。
だから私は、生涯、介護に関わっていきたいと思います。
取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班
撮影/池上夢貢
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