#1〈安倍元首相 銃撃1年〉山上徹也と日本の「失われた30年」。彼はなぜ、“弱者切り捨て社会”においてあそこまで自力にこだわったのか?

着々と結婚、出世する同級生に山上被告は何を思ったか

五野井 山上被告は40歳にさしかかり、体力が少しは落ちてきたでしょう。彼がやっている仕事は体力を使うものが多いので、多少きつくなってきたでしょう。そしてそういう仕事は年齢とともにだんだん働き口が減っていき、生活していくことが難しくなっていきます。そういうなかで自尊心をどう保つのかが山上被告のなかで大きい問題になっていったんだと、私には彼のツイートは読めました。

彼のツイートには「尊厳」や「プライド」という言葉が本当にたくさん出てきます。彼ほどの頭のいい人だったら、嫌韓や嫌中を煽るような適当なユーチューバーにもなれたはずなのに、そうはしないプライドがありました。彼は、自分が体力的にも経済的にも多少自由なうちに、自分で何とかしたいと思っていたはずです。そういうプライドが、難しい問題をひとりで抱えさせたのかもしれない。

彼の出身高校は偏差値も高い名門高です。体力がなくなってき始めた40代初頭、かつての学友たちを見回すと、みんな偉くなっているわけでしょう。社会的立場が上がっているだけでなく、結婚したり、子どもがいたりする。でも、同窓会に出席しようにも、自分には妻もいない。

ロスジェネ世代ということもあり、なかなかモテないし、職を得ることも難しい。働けど働けど生活が楽にならない。そして自分の手をじっと見てみると、この30年弱、ずっと体力仕事をしてきた自分がいる。何の役にも立たない資格の山だけが残っている。まわりは結婚も出世もしている。その悔しさたるや。

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池田 山上被告は、体力も含めて、自分で様々なタイムリミットを設定してあの行動を起こしたような気がします。安倍元首相が彼の住んでいる奈良に来るなんていうことは、その前の日に決まったことですから、それこそ運命のように感じてしまいます。また、山上被告は去年の春ごろから職場で様々なトラブルを起こしていたようですね。
 
五野井 2022年1月ごろ、山上被告が42歳のときに職場で複数のトラブルを起こし、4月に自宅で自作の銃を完成させ、職場に無断欠勤が増えて、5月についに派遣会社に退社を申し出ています。最後の出勤は4月下旬でした。ではそのころ彼はツイッターで何をつぶやいていたのでしょうか。

「もう何をどうやっても向こう2~30年は明るい話が出て来そうにない」(2022年6月)。しだいに体力が衰えてきて、まわりがどんどん偉く見えてきて、でも自分のプライドは保ちたいというときに、自分で「手仕舞いの場」をセットしたのかも知れません。