世田谷のボロ市に行った。
ボロ市というのは、安土桃山時代の1578(天正6)年に、小田原城主の北条氏政が始めた楽市が原点とされている。
かつて“世田谷新宿”と呼ばれていた現在の東京都世田谷区世田谷1丁目界隈で、毎年12月15〜16日と1月15〜16日の4日間にわたって開催される、東京都の無形民俗文化財にも指定された由緒正しき蚤の市だ。
開催期間中は路上に700軒にも及ぶ露店がひしめき、骨董品、古着および新品の衣類、古道具、インテリア、食器、手作り小物、古本、古レコード、おもちゃ、植木などなど、種々雑多な生活雑貨や食料品が販売され、各日20万もの人が訪れるという。
世田谷区・用賀の僕の家から会場までは、車で10分ほどの距離なので、昔からよく行っていたのだが、しきたりに則って固定された開催日は曜日とは関係なく、休日と重ならない年は行けないことも多かった。
そして2020年と2021年はコロナのため中止。
今年の開催は(12月は)両日とも平日ではあるが、3年ぶりなので、なんとしても行ってみようと前々から思っていたのだ。
会場は、世田谷区の史跡・代官屋敷がある“ボロ市通り”を中心としたエリア。
一応、世田谷線・世田谷駅近くが始点および終点となっていて、左側通行で歩いてぐるりと回れば、すべての露天を見て回れるようになっている。
でもとくに仕切られているわけではない街の一角すべてが会場なので、どこの道からでもアクセスすることはできる。
僕の場合は、我が家方面から近い、第二会場の端っこから攻めることにした。
世田谷のボロ市で買ったアンティークラジオを、Bluetoothスピーカーとして使ったら最高だった
アプリにサブスク、モバイル……音楽の聴き方が多様化するなか、昭和のアンティークラジオを使った、意外だけどグッとくる楽しみ方とは?
3年ぶりに開催された世田谷のボロ市で見つけた、
感性が自分にぴったり合うお店

いざ、ボロ市会場へ
当日は雲ひとつない気持ちのいい晴天だったことも手伝い、平日であることを忘れるほどの大賑わいだった。
そして僕は、エリアに入ってすぐのところで、早くもグッとくる店を見つけてしまう。
露天ではなく、商店街の空き店舗を利用している店で、入り口に並べられている昭和レトロな据え置き型ラジオが、いきなり琴線に触れてしまったのだ。


欲しくなってしまったアンティークラジオたち
お店の中に入ると、さらに僕の気持ちがグラグラと揺れた。
棚にはつげ義春を中心とするガロ系の古い漫画やプラモデルが並べられている。
そういえば店頭には、使用期限が切れた発煙筒やドリアンの皮などのわけがわからないものとともに、“ひろった石”が一個200円で並べられていた。
さらに店内をよく観察してみると、キーボードから外されたパソコンのキーだけが容器に大量に入れられ、「キーボードすくい」として売られているなど、いろいろと様子のおかしい店であることに気づいた。

サブカルネタ満載なお店の様子
魔改造されたらしき“梅こんぶ茶”の缶は、「スネークマン¥1000」「ハヤシヤ¥1000」というシールが貼られている。
上部のボタンを押すと「トントン(ノックの音)、警察だ! 麻薬現行犯で逮捕する。開けろ! トントントン/だ、だ〜れ〜?」や「ハ・ヤ・シ・ヤ マンぺーです」と、昔懐かしきスネークマンショーの名フレーズが再生される仕組みになっている。

謎のスネークマンショー缶
僕ら世代のサブカルネタ満載なこの店がとても気になり、中でも店頭のアンティークラジオが欲しくてしょうがなかったのだが、同行した妻からよく考えるように促され、一旦はその場を離れることにした。
妻による値段交渉の末、
状態のいいアンティークラジオをゲット!
その後は順路に従い、いろいろなものを食べたりしながら露店を一軒ずつ見てまわった。
妻は妻で手作りのニットキャップや木彫りのキーホルダー、古いアメリカのナンバープレートなどを買って喜んでいるが、僕はなかなか買うものが見つからなかった。
立ち止まってじっくり吟味したものは多いのだが、気になるクラシックカメラやアンティーク腕時計は、買ってみたものの使い物にならなかったらもったいないという気持ちが先立ち、財布に手が伸びない。
でも盛り上がる会場の雰囲気に触発され、気持ちがウズウズして仕方がなかった。
フリーマーケットの買い物客特有の一種の病気のようなものだと思うが、しまいには頭が少々バグってきたのか、骨董屋によく並んでいる仏像やアフリカの手彫りのお面、模造の日本刀などを手にし、(これ、いいかも。買おうかな)と悩んでしまう。
すると、他の店を見ていたはずなのに、いつの間にか音もなく僕の横に来ていた妻に、耳元で「いらないいらない」と囁かれ、ハッと我に返ったりした。

ボロ市のメインストリート
そんな僕の頭から最後まで拭い切れなかったのが、最初に目にした据え置き式のアンティークラジオだったのである。
僕は「やっぱり、あれだけは買うよ」と妻に宣言し、第二会場端っこの最初の店に引き返した。
アンティークラジオは他の露店でもたびたび見かけたが、その店で買おうと思った理由のひとつは、品質が信用できそうだったからだ。
試聴するとどのラジオも良い音が出たし、古いながらも筐体は綺麗にクリーニングされていた。
店主に聞くと、すべて自分でオーバーホールをしているし、故障した場合も連絡をくれれば修理すると言う。
前述のキーボードのキーだけではなく、店内には昔の秋葉原でよく見かけた、何に使うのかわからない電子部品なども大量に並べられているので、きっとそういうことが得意な人なのだろう。
だから12,000円という、他の店よりも少し高めの値付けも気にはならなかったのだが、こういうフリーマーケットでは値段交渉も醍醐味だ。
とは言うものの、僕はその手の交渉が大の苦手。
ここはいつも通り、営業畑で交渉ごとが得意な妻に任せ、一歩さがってその様子を見守ることにした。
すると、11,000円までの値引きで片を付けたいと思っているらしい店主に対して妻が粘り、見事10,000円に!
さすが妻ちゃん!
でも、どうも申し訳なかったので、例のスネークマンショーの謎缶をひとつ、一緒に買おうと思ったら、なんとそれはオマケでくれると言うではないか。
明らかにつげ義春の『無能の人』オマージュである“ひろった石”や、この明らかに著作権法違反である手作り“スネークマンショー缶”は、もともとシャレで置いてあったもので、気づいて買おうとしてくれた人にはタダでプレゼントしようと考えていたそうだ。


無料でもらったスネークマンショー缶
この人いいな〜好きだな〜と思ってしまった。
間違いなく、何かが少しぶっ壊れたサブカルビンボー人だ。
こりゃ友達になれそうだなと感じ入るものがあった。
1960年代製アンティークラジオの
今風な楽しみ方とは
こうして僕のものとなったアンティークラジオを、改めてご紹介しましょう。

手中に収めたアンティークラジオ
何本かの真空管を使う、サーモンピンクの筐体のラジオで、メーカーはパナソニック、ではなくてナショナル。
「GX-230」という型番で検索しても詳しいことはわからなかったが、どうやら1960年代初期に生産されていたものらしい。
2バンドのラジオではあるものの、その頃はまだFM放送が開始されていなかったので、受信できるのはAM放送と短波放送だ。

内部には、ぼんやり光る真空管が
短波とは、非常に遠くまで届く短い波長を用いて音響を送信する放送。
インターネットが普及した今となってはもはやその価値が失われたが、短波ラジオは世界の様々な国の放送が聴取できるため、かつては人気があった。
今ではほぼ廃れかけている短波放送を聴けるのも、このラジオのいいところである。

MWがAM放送、SWが短波放送
そしてバンド切り替えのつまみを左端にひねると「PH」モードがオンになる。
「PH」とはPHONOGRAM、つまりレコードプレーヤーの略。
このラジオは、ライン入力によって外部プレーヤーの音を再生することができる機能が付いているのだ。
今回、僕がこのラジオを買った最大の決め手はここだった。
いくら見た目がかっこよくても、AMと短波放送だけしか聴けないのだったら、いずれは飽きてただの置き物となってしまうだろう。
でも外部ライン入力が可能なら、スマホやタブレットと接続し、自分の好きな音楽を再生できるではないか。
さっそくアダプターやBluetoothトランスミッターを使い、iPhoneやiPadに接続してみた。
はっきり言えば、いくら真空管を使っているとはいえ、1960年代の普及品であるラジオのスピーカーは貧弱で、高音部はまだいいが低音部の鳴り方が全然ダメだ。
むしろiPhoneやiPadに内蔵されているスピーカーで聴いた方が、今の基準で言うところの良い音であることは間違いない。当然、ステレオではなくモノラルだし。

オーディオ接続アダプターやBluetoothトランスミッターを使う
でも、あえて大昔のラジオ品質に劣化させた音楽を聴いてみると、これはこれで実に趣深い。
特に、当時の再生装置のレベルに合わせて録音されたであろう音楽、例えば昔のアメリカのブルースやモータウンのR&B、それに日本の60年代歌謡曲なんかを聴くと、部屋ごとタイムスリップしたような気分になって、なかなか面白い。
もしかしたら何かを間違っており、非常にこじらせた楽しみ方であるのかもしれないが、買ってからこっち毎日毎日、わざわざこのラジオに接続して音楽を聴くようになった。

古い音楽を聴くのにちょうどいい
こんなにも素晴らしき出会いがあった世田谷のボロ市。
1月も行ってみたいと思っている。
お目付役の妻を同行しなければ、家のガラクタが増えてしまうだけかもしれないが。
写真・文/佐藤誠二朗
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