朝の公園が神秘的に美しい理由とは? 木々が呼吸し、水蒸気が雲になることで生まれる癒しの風景
朝の公園が清々しいのは、木々が呼吸することによって雲をうみ出しているからなのをご存知だろうか。映画『天気の子』を監修した雲研究者・荒木健太郎が身近な気象学を、わかりやすく解説する。最新著書『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』から、朝の公園で起きている気象学のメカニズムを一部抜粋・再構成してお届けする。
読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし #2
朝の公園の湯気
休日や通勤途中に立ち寄る公園。実はこんな身近な場所でも、気象=大気の現象に出会えます。ちなみに、「大気の状態が不安定」のように、天気予報でも当たり前に使われる「大気」は、「地球を覆っている空気」という意味です。
さて、ある日の雨上がりの朝、公園を散歩していると、切り株の上から湯気のようなものが出ているのを見つけました。これは味噌汁の湯気と同様に、雲粒ができる瞬間とよく似ています。
なぜ、切り株に湯気ができるのでしょうか。

切り株から立ち上る湯気 ©『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』
太陽からの光は、まず光が当たった物体を温めます。朝の公園では、切り株が日光を浴びて温められ、次に切り株に接した空気にも熱が伝わります。その温められた空気に、切り株から蒸発した水蒸気が多く供給されます。
そして、切り株より上の空気はそれほど温まっていないため、混ざって温度が下がることによって飽和し、水蒸気が凝結して湯気となるのです。
湯気が白く見える理由
切り株から立ちのぼる湯気の水滴は、雲粒と同じくらいの大きさがあり、当たった光は様々な方向に散らばります(散乱)。湯気が白く見えるのは、あちこちに散らばった様々な色の光が重なって私たちの目に届くからです。
切り株の近くでは、湯気の水滴が多く、光を強く散乱するために白色が濃く見えますが、湯気が上昇するにしたがって周囲の乾燥した空気と混ざって蒸発するため、白色が薄くなり、だんだん見えなくなります。

空に浮かぶ積雲 ©shutterstock
空に浮かぶ積雲も、周囲の空気と混ざると蒸発して消えていくという点で、湯気と似たプロセスを持っています。
温められた空気は密度が小さくなり、周囲よりも軽くなるため、上向きの流れ=上昇気流が発生します。切り株の湯気がどれくらいの速さで上昇しているかを映像から解析した上で「湯気と周囲との温度差がどれくらいあるのか」を計算したところ、湯気のほうが周囲よりも約5度高いことがわかりました。
気象条件によっても温度は変化しますが、実際に切り株から立ちのぼる湯気に手をかざしてみると、周囲に比べて少し温かいと感じます。
木漏れ日に包まれて
公園は、気象に関する様々な物理現象が見られる格好のスポットです。
植物は呼吸をしているため、雨上がりなどには水を吸った木が水蒸気を吐き出すようになり、木が多いとそれだけ多くの水蒸気が空気中に供給されます(蒸発散)。空気中の水蒸気の量が増えると飽和して、森林雲と呼ばれる霧のような雲が現れることもあります。
朝、樹木の茂る公園では、天使の梯子のような現象に出会うこともあります。夜間に地面から熱が逃げて地上付近の気温が下がる放射冷却に加えて、植物からの水蒸気の供給もある朝の森では空気がよく湿り、靄がかかりやすい状況です。

公園で観測できる薄明光線 ©shutterstock
細かな水滴が空気中に浮いているため、そこに日光が当たると光の経路が可視化され、天使の梯子とも呼ばれる「薄明光線」になるのです。
このように、森では地表付近の空気の層が特徴的なため、この層は「森林キャノピー層」と呼ばれています。また、都市でも「都市キャノピー層」という層ができます。
「キャノピー」はもともと、仏像や昔の高貴な人が使用していたベッドの上についている天蓋という意味で、気象学では空の一部や全部が建物や植物の枝葉で覆われた空間のことを指しています。
文/荒木健太郎
写真/©『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』
『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社刊)
荒木健太郎

2023年9月27日発売
¥1,980
394ページ
978-4478108833
気象学は、物理、数学、化学、統計などを駆使しながら、雲や雨の発生を読み解き、予測する…。複数の学問知を導入した知的な面白さに満ちた学問である。本書は人気雲研究者が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介!
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