男性がコンドーム着用した場合の快感度は何パーセント低下するのか。 パートナーに痛み、もしかしたら死に至らしめるリスクを減らすためにできること
コンドームを着用したセックスは気持ちよくないという偏見に囚われ、あらゆる避妊の責任を女性に押し付ける男性が、無責任な射精をしたときのみ起きることへの提言。 ニューヨークタイムズ・ベストセラー選出の世界9か国で翻訳された話題本『射精責任』(太田出版)より一部抜粋してお届けする。
射精責任#1
セックスの最優先事項と目的は男性の喜び!?
アメリカの一般的な性教育の授業では、女性の生殖器――卵巣、卵管など――について学びますが、快感に関係するクリトリスに関して学ぶことはありません(どのように機能するか、どのように刺激されるのか、女性のオーガズムとの関係など)。クリトリスについて言及することもありません。一方、快感に関係するペニスに対してはそうではありません。

性教育の授業が男性の快感だけに焦点を当てていると言っているのではありません。私はただ、性教育ではペニスについての言及は確実にあると指摘しているだけです。勃起については説明されています。射精についても同じです。セックスの最中に男性が経験する快感は――性的興奮とオーガズム――セックスの基本メカニズムの一部として提示されるのみです。
性的行為のなかで、男性が喜びを経験することは当然のことと受け止められています。同じ行為で女性も喜びを感じるのでしょうか? 誰がそれを知っているというのでしょう? 話題にもなりません。なぜなら、女性のオーガズムは、性の基礎知識のなかでは重要な部分とされていないからです。
でもこうしたことは、性教育の授業のなかだけの話ではありません。社会がセックスについて論じるとき、多くが男性視点からの話なのです。事実、「性行持続時間」の研究の多くは、男性がヴァギナ内で射精に至る時間を基準に行われています。
ステレオタイプの性行為の描写によれば、男性が射精するまでセックスは終了せず、男性が射精に至ればセックスは終わります。社会は男性の経験に注目しますが、女性の経験に対してはそうしません。
男性がオーガズムを感じ、ヴァギナに射精をすると、ほとんどの人はそれがセックスだと考えるでしょう。同じ性行為のなかで女性がオーガズムに至らない場合はどうです?
それでもセックスでしょうか?
はい、それでもセックスです。多くの人が、それでもセックスだと考えます。セックスを定義する唯一の方法ではありませんが、しかしそれが一般的でしょう。
コンドーム着用した場合の男性の快感度は20%低下!?
セックス中の男性の経験にしか注目しないことが、一部の男性のコンドーム着用への抵抗感の理由ではと推測しています。私が想像する思考パターンはこうです。もしセックスが男性の経験中心のものであるのなら、男性は自分の喜びを優先して、コンドームの着用を提案することはない。一切、コンドームの話題には乗らない(そしてセックスをする相手の女性も話題にしないことを願っている)。彼のなかで、これは完全に正当化できます。

なぜなら、繰り返しになりますが、社会が彼に(そして私たちに)セックスは男性の経験であって、男性の快感であると教えているからです。
でも、快感という意味ではどうなんですか? コンドームありのセックスと、コンドームなしのセックスでは快感が違うのでしょうか? 0が普通の状態で、10が最高に快感だとしましょう。とても気持ちがよいマッサージが5のあたりだとして、コンドームなしのセックスが10だとします。この基準では、コンドームありのセックスはどのあたりになるでしょうか? 7ぐらい? それとも8? ということは、コンドームありのセックスが快感でないというわけではなく、快感度が下がるということなのです。10のところが8になるということです。
さて、ここで本当に居心地の悪い結論を導き出そうと思います。コンドームなしのセックスを男性が求めるとき、彼は女性の体を、健康を、社会的地位を、仕事を、経済的地位を、二人の関係を、そして女性の命さえ危険に晒しているのです……たった数分の、よりわずかに気持ちいいことのために。書いていて恐ろしくなってきました。考えるだけで胃が痛くなります。男性は、ほんのわずかに気持ちいいことのために、本当に女性の人生を危険に晒すのでしょうか?
ええ。晒します。そんなことは毎日起きています。道端に咲くタンポポぐらい、ありとあらゆる場所にある話です。男性が極端に配慮に欠けるとも言えますが、私はこれについては、
① 女性にとって、それが実際にどういう意味なのかを理解していない、あるいは尊重していない。
② この無関心を強化してしまう文化がある。
③ 重大な結果に繋がることを軽視してでも、喜びを最大限にしてしまう人間の性(さが)がある。
が原因ではないかと考えます。
※身体的快感の基準を1から10であると議論したとき、とある男性が教えてくれました。「コンドームありのセックスの快感度だけど、実際には9.75、9.8、9.9ぐらいの話だと思うよ。僕は男だからわかるし、違いなんてほとんどわからないよ。違いがあるなんて男が言うのは不誠実だね」ということでした。
コンドームを付けるのはナイフとフォークを使って食事するようなもの
しかし、女性の生命がかかっているのですから、男性が無防備なセックスから導き出される結果を理解し、この無関心をよしとしない文化を広げていくのに、それほど説得力が必要だとは思えません。快感を犠牲にしない方法で、男性に責任ある行動を取ってもらうことはできるでしょうか?

さて、この例えはいかがでしょう。人生における、セックス以外の最高の楽しみとはなんでしょうか。例えば、食はどうでしょう。大好物の一皿、デザート、または飲み物を想像してください。その大好物にあなたが溺れるたびに、親しい誰かに重大な身体的、心理的痛みを与えるリスクがあるとしたらどうしますか? 確実にそうなるわけではありませんが、現実的なリスクがあるとします。残念な気持ちになるでしょうが、二度とその好物は口にしないですよね? リスクを冒す価値がないですから。
それでは、その大好物を食べる前に、誰かに痛みを与えるリスクを最大限に減らすことができる、シンプルな作業があるとします。でも、そのシンプルな作業はその好物を口にする喜びを少しだけ減らすとします。誤解のないように書きますが、減らされた状態でも、十分に喜びは感じられるのです。例えば、ピザを食べるときに、手を使って食べたいのにナイフとフォークを使わなければならない程度のことなのです。
大好物を口にするたびに、親しい人に痛みを与えるリスク、もしかしたら死に至らしめるリスクを減らすため、このシンプルな妥協案を受け入れてくれますか?
もちろん、受け入れてくれますよね。
※男性の快感に焦点を当てるのとは対象的に、セックスを語るとき、そこに女性の快感を考慮することは多くありません。文化的にも(悲しいことに、特に男性によって)女性の快楽は無視されるか、軽視されてしまいますが、女性もセックス中に快感を得ることができるのです。マスターベーションでは95%の女性がオーガズムに至ります。初めての女性同士の性行為では、64%の女性がオーガズムに至るのです。しかし、男性との初めての性行為でオーガズムに至るのはわずか7%です。ということは、社会がセックス中の女性の快感を無視する際に問題となるのは、女性のオーガズムを感じる能力ではないとわかります。問題なのは、異性間性交渉に対する社会の思い込み、なにより男性の快感にだけ焦点を当てている点なのです。
文/ガブリエル・スタンリー・ブレア 訳/村井 理子
射精責任
ガブリエル・ブレア (原著), 村井 理子 (翻訳), 齋藤 圭介 (解説)

2023/7/21
2,200円
216ページ
全米騒然
ニューヨークタイムズ・ベストセラー
世界9カ国で翻訳
刊行前からSNSで話題沸騰!
望まない妊娠は、セックスをするから起きるのではない。
女性が世界一ふしだらなビッチだったとしても、何の問題もない。
女性の50倍の生殖能力を持ち、
コンドームを着用したセックスは気持ち良くないという偏見に囚われ、
あらゆる避妊の責任を女性に押し付ける男性が、
無責任な射精をしたときのみ起きる。
望まない妊娠による中絶と避妊を根本から問い直す28個の提言。
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