2007年には木村拓哉を表紙に起用し、“洋画誌”として引いていた一線をこえた「ロードショー」だが、2008年はさらに新たな試みを導入する。ゴシップ記事の強化である。
もともと洋画情報を扱う雑誌だから、彼らの私生活に関する話題は常に一定の割合を占めていた。とはいえ映画俳優へのリスペクトから、あまりにディープなネタや扇情的な見出しは避けるというのが「ロードショー」の伝統だった。
だが、前年、恋愛や結婚、離婚などの最新情報コーナー「セレブログ」を新装開店し、パワーアップ。2008年1月号の表紙では「ゴシップ、大好き!」と高らかに宣言している。
表紙からみても、その変化は明白だ。「ハリウッド・ニュースの真相を追跡。恋愛、結婚、離婚、出産、逮捕…etc.」(1月号)、「ジョニーのクリスマス・プレゼント、撮った!」(2月号)、「妊娠おめでとう! ジェシカ・アルバ直撃インタビュー」(3月号)、「撮った! ジョニー一家のスキー旅行」(4月号)「独占!!ブラッド・ピット一家雪山旅行」(5月号)、「人気スター100人『新作&恋のウワサ』」(9月号)……。そのハイライトがジェシカ・アルバと誕生したばかりの愛娘との写真(10月号)と、アンジェリーナ・ジョリー&ブラッド・ピット&双子の写真(11月号)である。どちらも二次使用を固く禁じるという条件つきでの落札だったので、ここでは紹介できないが、相当な金額を投じたに違いない。

【休刊まであと1号】生き残りをかけて、邦画とゴシップ中心に方向転換した「ロードショー」。しかし回復できないまま、2008年最後の号を迎える。その表紙を飾ったのは、意外にも…?
人気絶頂の松本潤のカヴァー&連載、スターのベビーの写真の独占入手。洋画誌というより女性週刊誌のようになったのも、「ロードショー」のサヴァイヴァル戦略ではあった。しかし努力は及ばず、表紙でもファイナルカウントダウンが始まる。
ロードショーCOVER TALK #2008
タブーを破りゴシップ強化へ

松本潤のポートレートに「ニッポン」の文字が躍る。20世紀には考えられなかった表紙
©ロードショー2008年6月号/集英社
また、邦画重視路線も継続中で、6月号には単独日本人俳優としてふたりめとなる松本潤が表紙を飾っている。特集タイトルは「ニッポンが、オモシロイ。NIPPONの映画、応援宣言!」。誌面でも映画を語る連載をもっていた松本をはじめ、長澤まさみ、草彅剛、柴咲コウ、綾瀬はるかなどのインタビューが掲載されている。
ゴシップと日本人タレントだらけで、もはや女性週刊誌化しているのだ。
「ロードショー」の女神たち
ただ、洋画誌としての矜持が完全に失われてしまったわけではない。7月号では『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』(2008)の主要キャスト、8月号では同シリーズがようやく主役級に据えた美男ベン・バーンズを表紙にしている。50年以上愛されてきた有名児童文学小説の映画化ゆえに、次の『ロード・オブ・ザ・リング』や『ハリー・ポッター』になると期待されていた。なにより原作が7作もあるため、長寿シリーズになるはずだった。
だが、あいにく作品は凡庸な出来で、ディズニーは第2章をもって配給から撤退。その後、20世紀フォックスが引き継いで『ナルニア国物語 第3章:アスラン王と魔法の島』を配給するものの、こちらも本作かぎりで撤退している。
カスピアン王子を演じたベン・バーンズは、オーランド・ブルームに続くスターとして期待されていたが、映画と同様、反響はいまいちだった。
ちなみに、この時期は『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(2007)や『エラゴン』(2006)、『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』(2004)など、数多くのヤングアダルト小説が映画化されている。いずれもシリーズ化を想定して作られたものの、興行が期待外れだったため、続編は作られていない。
2008年の日本の興行収入ランキングのトップ3は『崖の上のポニョ』『花より男子ファイナル』『おくりびと』(いずれも2008)で、洋画は4位の『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008)と9位の『アイ・アム・レジェンド』(2007)のみだ。映画興行において洋画は冬の時代に突入していた。おまけにこの頃のハリウッドは凡作を吐き出していたため、「ロードショー」にとっては推すべき作品もスターも見あたらない。サヴァイヴするための苦肉の策が、ゴシップと日本人タレントの強化だったのかもしれないが、売上は回復しなかった。
なお、12月号のアンジェリーナ・ジョリーが表紙を飾った最後の人物となる。この年も3回もジョニー・デップであったことを考えると意外なチョイスだ。だが、思い返せば、2000年ごろに男優に逆転されるまで、創刊号のカトリーヌ・ドヌーヴからずっと「ロードショー」の表紙は主に女優が彩ってきた。最後にアンジーを選択したのは、せめてもの原点回帰だったのだろうか。

「スターが大好き!」というのはこの雑誌の原点である
©ロードショー2008年12月号/集英社
◆表紙リスト◆
1月号/ブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリー 2月号/ジョニー・デップ 3月号/ジョニー・デップ 4月号/ニコール・キッドマン 5月号/ジョニー・デップ 6月号/松本潤※初登場 7月号/中央のベン・バーンズ(※初登場)から時計回りに、スキャンダー・ケインズ、ウィリアム・モーズリー、アンナ・ポップルウェル、ジョージー・ヘンリー(『ナルニア国物語』)8月号/ベン・バーンズ 9月号/右からキム・キャトラル、サラ・ジェシカ・パーカー、シンシア・ニクソン、クリスティン・デイヴィス(『SEX & THE CITY』)※全員初登場 10月号/ジェシカ・アルバ&娘のオナーちゃん(掲載なし) 11月号/アンジェリーナ・ジョリー&ブラッド・ピットと双子のヴィヴィアン&ノックス(掲載なし)12月号/アンジェリーナ・ジョリー
表紙クレジット ©ロードショー2008年/集英社
ロードショー COVER TALK

【休刊まであと2年】日本俳優初の単独表紙を飾ったのは、木村拓哉。邦画の隆盛とハリウッド映画の失速、新スターの不在など厳しい条件下で、「ロードショー」は“洋画雑誌”の看板を下ろす決意を!?
ロードショーCOVER TALK #2007

【休刊まであと3年】1年の半分の表紙を飾るというジョニー・デップ祭り! 一方、ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーのベビー・カバーはお見せできない…その理由は!?
ロードショーCOVER TALK #2006

女性の表紙は1年間で1回のみ! 女優主導だった「ロードショー」の歴史が完全にひっくり返ったのは、ハリウッドの体質の変容を反映していたから!?
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世界のジョニー・デップはもともと、知る人ぞ知る個性派俳優だった!? 彼をスターダムに引き揚げた大物プロデューサーの秘策とは
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『ハリポタ』人気にオーランド・ブルームの登場で盛り上がる洋画界。だが、日本映画の製作体制の劇的変化が、80年代から続いてきた“洋高邦低”を脅かし始める…
ロードショーCOVER TALK #2003

『ロード・オブ・ザ・リング』『ハリポタ』と特級シリーズの開始で元気なハリウッド。しかし、この“シリーズ”こそが、映画スターと映画誌の命とりとなっていく…!?
ロードショーCOVER TALK #2002

A級スター入りしたアンジェリーナ・ジョリーが指し示した新たな方向。21世紀が始まるも変わらず元気なハリウッド映画界で、さまざまに多様化していくスターの生き方
ロードショーCOVER TALK #2001
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