(前編)

推し活が“心のリハビリ”に

山田さんは家の手伝いも居場所だった書店通いもやめて酒浸りの生活を続けていたが、42歳のときに酒を飲むのをやめた。身体を壊してしまい「健康的に生きたい」と思って抹茶や濃い緑茶を飲み始めたら、自然と酒量が減っていったのだという。

酒をやめると自然と目が外に向くようになり、1、2か月に1度、女子サッカーの試合を見に行くようになった。いわゆる「推し活」だ。テレビで試合を見て、「選手たちが礼儀正しくて素敵だな」と感じたのだという。

「趣味の外出ができるのに、ひきこもりなの?」と疑問に思う人もいるかもしれないが、国のひきこもり調査の定義では、半年以上家からほとんど出ないが、近所のコンビニなどには出かける人を「狭義のひきこもり」、ふだんは家にいるが趣味の用事のときは外出する人を「準ひきこもり」とし、両方を合わせて「広義のひきこもり」としている。

長年ひきこもっていた人にとっては、いきなり仕事をするのも学校に行くのもハードルが高い。まずは趣味の外出をしたり、居場所となるコミュニティに通ったりして、少しずつ社会とのつながりを取り戻していくことが必要なのだろう。

山田さんは、この推し活のことを「心のリハビリ」と称している。

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試合会場が遠方の場合は、高速バスや青春18きっぷを使って節約しているが、交通費の他に宿泊代もかかる。母親に頼むとその都度お金を渡してくれるのだが、お金のことに関して毎回嫌味を言われるのが辛かったという。

「旅行に行くと言うと、あれこれ難癖つけて、お金を投げつけるような感じでくれます。自分の食事は自分で作っているので、近所のスーパーにも行きますが、私が何を買ったのか母親はレシートを必ず見て、数百円でも全部把握しないと気がすまない。じゃないとお金はやらないという態度なんです」

母親とやり取りをするたびに山田さんはストレスがたまり、「自由になるお金がほしい」と思うようになった。それが後に、「働こう」と思う原動力の一つになるのだから、何が幸いするかわからないものだ。