コロナ禍の行動制限には結局、何の意味があったのか…日本の実態、ノーガード戦法をとったスウェーデンのその後
発生から3年を経過した新型コロナウィルス。緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置(まんぼう)はどのような効果をもたらしていたのか。3年分の蓄積されたデータから読み取ってみる。『全検証 コロナ政策』 (角川新書) より、一部抜粋、再構成してお届けする。
『全検証 コロナ政策』#3
緊急事態宣言とまんぼう、宣言のたびに人流は減った
コロナの感染経路は飛沫感染が主ですから、人流を抑制すれば、飛沫が飛ぶ機会も減り、その分感染も抑えられると考えられます。
そのような観点から、緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置(まんぼう)が数次にわたって発令されました。
都道府県によって回数や時期が異なりますので、全国をまとめて分析することができません。そこで、最も感染者数が多い東京都に絞って見ていきたいと思います。東京都における緊急事態宣言とまんぼうの発令状況は次のとおりです。緊急事態宣言が合計4回、まんぼうが合計3回です。
第1回緊急事態宣言 2020年4月7日~2020年5月25日
第2回緊急事態宣言 2021年1月8日~2021年3月21日
第1回まん延防止等重点措置 2021年4月12日~2021年4月24日
第3回緊急事態宣言 2021年4月25日~2021年6月20日
第2回まん延防止等重点措置 2021年6月21日~2021年7月11日
第4回緊急事態宣言 2021年7月12日~2021年9月30日
第3回まん延防止等重点措置 2022年1月21日~2022年3月21日
これと、内閣官房のサイトにある人流データを重ねてみましょう(図27)。このデータは、主要地点の8時と15時の人出及び歓楽街の人出(21時と28時の差)を示したものです。背景グレーが緊急事態宣言期間、横線がまんぼうです。
緊急事態宣言が出ると確かに人流が減っていることが分かります。事前にアナウンスされるからか、宣言期間の少し前から減少が始まります。第1回の緊急事態宣言の際に一番人流が減っており、その後、宣言のたびに人流が減りますが、第1回ほどではありません。

図27 東京都における緊急事態宣言・まんぼう期間と人流の推移。『全検証 コロナ政策』より
では行動制限に効果があったのか検証しよう
まんぼうは緊急事態宣言と比べると、人流の減りが弱いです。
なお、第3回緊急事態宣言と第4回緊急事態宣言の間に、第2回まんぼうが挟まっていますが、ここだけむしろ人流が増えています。
ただ、第1回まんぼうの時は減っていますし、第3回まんぼうの際も減っています。緊急事態宣言と比べると相対的に見て増えてしまうということでしょう。
第3回まんぼう後、特に行動制限はされていませんが、主要地点の8時と15時の人出及び歓楽街の人出(21時と28時の差)のいずれも、2019年の水準には戻っていないことが分かります。
では、緊急事態宣言とまんぼうによって人流が実際に減ることが判明したところで、今度は東京都の新規感染者数と重ねると何が見えるでしょうか(図28)。
行動制限の効果を見極めるには、「行動制限をした状態」と「行動制限をしなかった状態」と比較する必要があります。さらに、行動制限の有無以外の条件を全て同じにする必要があります。これを現実世界で厳密に実現しようとすると不可能ですが、2022年はこれに近い状況がありました。
22年において行動制限があったのは第3回まんぼうのみであり、それ以降、行動制限はありません。そして、22年において流行したのはオミクロン株です。厳密にいうと、オミクロン株といっても変異を重ねているため全く同じとは言えないのですが、同じ種類の株ではあります。

図28 東京都の新規感染者数と緊急事態宣言・まんぼう期間。『全検証 コロナ政策』より
行動制限をした方が、しなかった場合よりも感染者数を抑え込めるのではないか
そこで、22年以降だけ見てみると、第3回まんぼうが発令された時は6波の最中でしたが、そのピークは2月8日の2万39人です。その後、今まで最大となる第7波がきましたが、1日のピークは6波の約2倍となる4万406人(7月28日)となりました。
さらにその後第8波がきましたが、ピークは12月27日の2万2063人です。
このように、行動制限のあった第6波と比べると、第7波はその約2倍、第8波は2000人ほど上回りました。
特に、何の行動制限も無かった第7波の感染者数ピークが約2倍となったところを見ると、全く同じオミクロン株ではないということを考慮しても、行動制限をした方が、しなかった場合よりも感染者数を抑え込めるのではないかと思います。
ここで、日本よりももっと厳しい行動制限を実施したヨーロッパに目を向けてみましょう。ヨーロッパの場合、当初全く行動制限をしないノーガード戦法をとったスウェーデンがありますので、それと他国とを比較すれば、行動制限の有無でどれくらいの違いが出るのかが分かりやすいでしょう。まずは2020年のヨーロッパにおける100万人あたり感染者数を多い順に並べたグラフを見てみましょう(図29)。

図29 ヨーロッパにおける100万人あたりの新型コロナ感染者数、各国比較(2020年)。『全検証 コロナ政策』より
ノーガード戦法のスウェーデンは正解だったのか
これを見ると、スウェーデンはデータのある49の国または地域のうち17位であり、やや上の方にはいますが、飛びぬけているわけでもありません。しかし、隣国であるノルウェー、フィンランド、デンマークと比較してみると、違った姿が見えてきます。違いが分かりやすい2020年1〜8月のこの4か国における新規感染者数の推移を見てみましょう(図30)。

図30 北欧4か国における100万人あたりの新型コロナの新規感染者数(2020年1〜8月)。『全検証 コロナ政策』より
このように、感染者数の推移が全く異なります。4か国いずれも同じくらいのタイミングで感染者増加が始まりましたが、スウェーデンを除く3か国は減少に転じた一方、スウェーデンは減らず、それどころかさらに高い感染の波を記録しました。隣国同士でこのような違いが生まれる原因は、行動制限の有無以外に無いでしょう。
では、2020年1年間で見るとどうなったのか見てみましょう(図31)。

図31 北欧4か国における100万人あたりの新型コロナの感染者数(2020)。『全検証 コロナ政策』より
このように、スウェーデンが他を大きく引き離して1位です。ただ、フィンランドとノルウェーに比べると、デンマークも多いです。スウェーデンとデンマークだけ文字通り「桁違い」になっています。
デンマークが多いのは、他と比較してPCR検査の回数が多いことも影響しているのではと思います。これは後ほど触れます。
20年の死者数はスウェーデンが圧倒的1位だったが…
死者数についてはどうでしょうか(図32)。

図32 北欧4か国における100万人あたりの新型コロナの死者数(2020)。『全検証 コロナ政策』より
これもスウェーデンが圧倒的に1位です。感染者数よりも差が大きく、ノルウェーの約10.6倍、フィンランドの約8倍、デンマークの約4倍です。
では、この後はどうなったのでしょう。2020〜22 年の各年の100万人あたり感染者数を並べて比較してみましょう(図33)。

図33 北欧4か国における100万人あたりの新型コロナの感染者数、年ごとの推移。『全検証 コロナ政策』より
このように、21年になると、この4か国の中ではデンマークが1位になりました。さらに、22年には、スウェーデンは最下位となり、デンマークが圧倒的1位になっています。
20〜22年の3年間の100万人あたり累積感染者数の推移を見てみましょう(図34)。

図34 北欧4か国における100万人あたりの新型コロナの新規感染者数の累積。『全検証 コロナ政策』より
このように、デンマークが急激に感染者数を伸ばし、他3国を大きく引き離しています。デンマークの伸びが凄すぎて霞かすんでしまうのですが、ノルウェーとフィンランドの伸びも凄まじく、結局スウェーデンを追い越しています。
線の推移を見れば分かるとおり、当初ノーガード戦法で臨んだスウェーデンが他3国を大きく引き離していましたが、2022年になって急激に他3国が伸び、累積でスウェーデンを追い越す、という結果となりました。
では、100万人あたりの死者数についてはどうでしょうか。これも、各年ごとに並べて見てみましょう(図35)。
2020年はスウェーデンが圧倒的1位、21年も1位です。21年でも2位のデンマークの2倍近くありますので、その差は非常に大きいです。ところが、22年になると、フィンランドが急激に増えて1位になりました。スウェーデンは下から2番目になりました。

図35 北欧4か国における100万人あたりの新型コロナの死者数、年ごとの推移。『全検証 コロナ政策』より
3年間の累積でみるとどうなるのか
では、3年間累積で見てみるとどうなるでしょう(図36)。

図36 北欧4か国における100万人あたりの新型コロナの死者数の累積。『全検証 コロナ政策』より
累積で見ると、まだスウェーデンが1位であり、かつ、他3国との差も大きいです。
このように、100万人あたり感染者数で見ると、スウェーデンは他3国に追い抜かれましたが、100万人あたり死者数ではまだ1位です。ワクチンも無い時期にノーガード戦法を取ったため、多くの死者を出してしまったことが影響していると言えるでしょう。振り返ってみるとやはり無謀だったのではないかと思います。
このように、スウェーデンと隣国との比較からすると、行動制限に効果はあったと言ってよいでしょうが、これをまたやるのは無理ではないかと思います。本書では詳しく分析していますが、客観的に見て財政的・金融的に無理なのですが、何よりも気持ちの面で無理でしょう。
私がコロナ禍で学んだのは、「人間の我慢には限界がある」ということです。今後感染状況がどれだけ悪化しても、強い行動制限は国民から支持されないでしょう。
文/明石順平 図版作成/小林美和子 写真/shutterstock
『全検証 コロナ政策』 (角川新書)
明石 順平 (著)

2023/8/10
¥1,210
344ページ
978-4040824574
緊急事態宣言、ワクチン、給付金…その政策、効果はあったの、なかったの?
(目次)
はしがき
第一章 コロナの現実
1 はじめに
2 感染者数
3 死者数
4 重症者数
5 入院治療等を要する者等推移
6 集団感染等発生状況
7 コロナ後遺症
8 スペイン風邪との比較
第二章 海外との比較
1 世界との比較
2 各地域との比較
第三章 コロナ対策
1 ワクチン
(1)ワクチン接種国際比較
(2)感染予防効果
(3)発症予防効果
(4)重症化予防効果
(5)後遺症予防効果
(6)ワクチン副反応
2 マスク
3 行動制限
4 PCR検査
第四章 医療崩壊
1 救急搬送困難事案
2 病床多くして医師少なし
3 民間病院が約8割
4 他の国ではどうか
5 5類変更で何が変わるか
第五章 コロナ予算
1 2020年度決算の規模と上昇率は1950年度以降で最大
2 何に使われたのか
(1)執行率を算定できたのは8割、その中で使われたのは8割
(2)地方にばらまかれたお金
(3)コロナ防止策に使われたお金
(4)経済・雇用対策
(5)予備費の行方
(6)効果は?
第六章 経済へのコロナ後遺症
1 日本の資金繰り
2 アベノミクスとは
3 失敗を統計操作でごまかす
4 アベノミクスの真の狙い
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