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移住で宿った3つの夢

「えっ、あのご夫婦、元ジャイアンツの川口さんご夫妻なの?」

鳥取市の移住相談窓口で、スタッフの驚きの声があがったのは2021年秋のことだった。川口氏は、自ら市や県の移住担当の窓口を訪ねて、移住の注意事項を聞いたりした。空き家探しも自分で行った。

全国最少人口県・故郷の鳥取に移住した元プロ野球選手・川口和久が農業を始めて手に入れた3つの新たな夢_1
元プロ野球選手の川口和久さん
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自治体の担当者には、移住に関してその胸に宿った3つの夢を相談したという。

1つはアマチュア野球のレベルが低いと言われる鳥取から、プロ選手を輩出するお手伝いをしたいということ。

移住の前から、川口氏は県内の少年野球チームから声がかかれば、ギャラは二の次にしてNOはなかった。2018年には元大リーガーのイチロー氏らとともにアマチュア野球の指導者の資格もとり、NHKの高校野球の解説者も引き受けた。

「いい投手を育てたい。投手が育てばいい打者が生まれてきますから」というのが口癖だ。つまり口には出さないが、川口二世を育てたいという夢がある。

全国最少人口県・故郷の鳥取に移住した元プロ野球選手・川口和久が農業を始めて手に入れた3つの新たな夢_2

同時に「誰でも参加できる野球教室」開催を目指して、グラウンド探しも始めた。

この夢は、現在着々と成果を出しつつある。

2つ目の夢は農業だった。農地を手に入れて、米づくりをしてみたい。しかも鳥取で誕生して間もない品種「星空舞」の栽培にチャレンジしてみたい。

それを叶えるために市の相談室に出向くと、県の担当者に話が通じて「星空舞」の苗が手に入ることになった。県庁の農業担当スタッフにとっても、川口氏の米づくりは「星空舞」ブランドのPRのためには朗報だったのだ。

農地は、市内から車で30分ほどの実家近くにある、吉岡温泉に二反(約1983平方メートル)の休耕田が見つかった。この地を、兄の木村秀明氏の農業資格を使って借りて、星空舞の米づくりが始まった。

このとき川口氏が選択したのは、新人農家にはハードルの高い「無農薬栽培」だった。草取り等の手間はかかるが、川口夫妻は黙々とその作業に取り組んだ。県の農林水産課星空舞普及担当者はこう語る。

「川口さんご夫婦は普通の農家よりもはるかに手間隙かけて米づくりに取り組んでいらっしゃいます。無農薬ですから草取りも大変なはずです。途中で何かあったらどうしようとハラハラしていましたが、時折いただくLINEの報告などでも順調そうで、私たちも喜んでいます」