ここ数年の外食文化をめぐる大きな流れは、インターネットの普及、そして国際化、情報共有のスピードの速さです。
まず、食べログやレッティがネットの情報収集や拡散機能を使った日本人による日本人のための食ガイドであるのに対し、世界レベルでネットを使って世界のレストランを位置づけようという試みができました。
「The Worldʼs 50 Best Restaurants(世界のベストレストラン50)」がそうです。
これは世界中のフードライター、シェフ、美食家ら1000人以上がベストレストランを50軒選ぶというシステムで、年に一度、毎年違った国でランキングの発表会が行われます。ネットでも発表されますが、活字版は出ません。2022年版では、トップはデンマークの「ゲラニウム」、2位はペルーの「セントラル」と、これまで欧米の一流店が並んだレストランガイドとはまったく違った様相を見せています。
しかし世界中の食を食べ歩く最先端の人々にとっては、最近ではミシュランよりもこちらのほうが評価されているのです。
しかも日本のレストランは、20位に「傳(でん)」が入賞、「フロリレージュ」が30位、大阪の「ラシーム」が41位、「ナリサワ」が45位と4軒がランクイン。世界のレストランの中で日本のそれが占める位置をみても、日本がいかに美食の国であるかがわかります。
※「世界のベストレストラン50」とは、世界中の食通や批評家からなる審査員によって選出される、世界最高峰のレストランランキング。
美食家の間でミュシュランガイドより評価されているものとは? インバウンド需要が復活しつつある中、日本の観光ビジネスを輝かせる「フーディー」の存在
インバウンド需要が復活しつつある今、富裕層をターゲットとした観光ビジネスを大きく牽引するのが「日本の食」。さらに「美食立国」となるために必要な手法とはどんなことなのか、『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論 ――時代はガストロノミーツーリズム――』(発行:日刊現代)(発売:講談社)より一部抜粋・再構成してお届けする。
ニッポン美食立国論#1
美食家の間でミュシュランガイドより評価されているものとは?

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フーディーの定義とは?
その美食の国に足しげく通っているのが「フーディー」と呼ばれる人々です。辞書的には、フーディーは「食通」「グルメ」という意味であると解説されますが、私の解釈ではちょっと違っています。
食通やグルメは「料理の味や料理の知識について詳しいこと。またそれを詳しく知っている人物のこと」(デジタル大辞泉)とされますが、フーディーはそれに加えて、積極的に食べ歩く人々を指します。しかも、食べ歩く場所は、自国のみならず、世界中。なかにはプライベートジェットで旅してまわるフーディーもいるのです。
彼らの存在が明るみに出たきっかけは2014年にスウェーデンで制作されたドキュメンタリー映画『99分,世界美味めぐり』だといわれます(日本公開は2016年)。原題は「Foodies」で、世界各地の名店に足を運ぶフーディー5名を追ったドキュメンタリー映画です。
映画に登場するのは、大手石油会社の元重役アンディ・ヘイラー、タイ・バンコクの金鉱会社の御曹司パーム・パイタヤワット、レコードレーベルの元オーナーのスティーヴ・プロトニキ、リトアニア出身で元スーパーモデルのアイステ・ミセビチューテ、香港生まれのOLケイティ・ケイコ・タムの5人。香港のケイティ・ケイコ・タム以外はすべて富裕層で(彼女も裕福ではないとは思えませんが)、誰もが自分の財布で移動し、食べ歩いているのです。
映画では、ニューヨークやコペンハーゲンの最先端レストランから中国の山奥まで全29店が紹介されていますが、日本からは「菊乃井」「鮨さいとう」「傳」「都寿司」が登場しています。
日本料理と寿司ばかりですが、どこも予約困難な店です。特に鮨さいとうは3つ星の常連でしたが、いまや一見ではまったく予約が取れないため、ミシュラン非掲載となってしまっています。私も開店当初はずいぶん訪れましたが、最近は「さいとうの予約取ってたんだけれど、ひとりキャンセルが出たんで、代わりにいきませんか」と誘われてようやく行ける程度です。

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フーディーが登場した背景は、ネットの登場で情報を容易に獲得できるようになったことが一番大きいと思いますが、「非日常的な外食」が増えたことで、外食を楽しむことが「趣味」となったこともあると私は思っています。
その、非日常的な外食が増えた端緒は、スペインにあったレストラン「エル・ブジ」の登場だと私は考えています。
非日常的な外食の先駆けとは?
バルセロナから2時間ほどの郊外にあるリゾートレストランであったエル・ブジはすでに閉店していますが、かつては約50席しかないシートに、世界中から年間200万件もの予約希望が殺到し、「世界一予約が取れないレストラン」と呼ばれていました。
エル・ブジ自体は1964年に開店しているのですが、有名になったのは1981年にフェラン・アドリアがシェフになってからです。フェランは独創的な料理を提供するため、4月から10月までしか営業せず、残りの半年間は新しいメニューの開発を行いました。
料理はすべてコースで40皿以上、すべてを提供し終えるのが深夜にまで及ぶこともありました。
シーズンごとにメニューを一新するのですが、エスプーマやアルギン酸カプセルを使った調理科学を積極的に取り入れたり、醤油や柚子など日本の食材も使った斬新なもので、世界中から富裕層が自家用ジェットやボートでやってきたといわれます。
1997年にはミシュランの3つ星を獲得、2002年にはじめて「世界のベストレストラン50」の第1位に輝いたのち、2006年から2009年は4年連続して第1位となっています。
しかし、あまりにも忙しく、自分の料理をどうしていいかわからなくなったとして、フェランは2011年7月30日まででレストランを閉店してしまいました。
とはいえ、彼が発見した科学的な調理は世界中の弟子たちに受け継がれました。日本でも、山田チカラ、橋本宏一、永島健志、藪中章禎、太田哲雄といった若いシェフがフェランの下で学び、帰国後は「81」「セクレト」「山田チカラ」など、斬新なレストランをどんどん作っています。
『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論 ――時代はガストロノミーツーリズム――』(発行:日刊現代)(発売:講談社)
柏原 光太郎

発売日:2023年5月26日
価格:1,870円(税込)
単行本(ソフトカバー): 272ページ
406532341X
日本各地に「美食経済圏」を構築せよ!
富裕層旅行が注目される今、美食を核に据えた経済圏構想を軸に、点から面のツーリズムの発想転換で、地方&日本を再生する手法を展開した“シン観光立国論”!
大軽井沢経済圏、北陸オーベルジュ構想、瀬戸内ラグジュアリーツーリズム……。
一泊100万円かかっても価値ある旅にはカネを惜しまない富裕層をターゲットにした観光ビジネスは、インバウンド需要が復活しつつある今、観光庁もイチオシの最注目分野だ。
本書では、大軽井沢経済圏や北陸オーベルジュ構想――等々、点から面のツーリズムへの発想転換で、地方をそして日本を輝かせるための「美食経済圏」を核にしたユニークな施策を大公開。食のメディアを作り続けてきた“食通”編集者が、約40年のキャリアで培った知見の集大成の書である。
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