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ついに現れた野獣列車

談笑をしていたぼくらに、一瞬にして緊張感が走る。「ピー」という汽笛の音が、うっすらと聞こえる。一気に真剣な表情になって、ノルマさんたちは立ち上がる。「バモバモバモバモ!」スペイン語で、行くよ行くよ、という掛け声である。

「水を全部、手押し車に乗せて、ほら食事、これを持って。ああ、そっちの袋詰め終わってない方はいいから。行くよ、行くよ!」

ぼくは、慌ててバッグからカメラを取り出す。片手には、袋詰めの食料を持って。パトロナスの家を出て、空き地を通って線路へと向かう。距離は100メートルもない。敷地のすぐ隣が線路なのだ。線路は単線。おばちゃんたちもぼくらも、一心不乱に線路に向かって走る。全員、サンダル履きだ。サンダルがペタペタと鳴る。

列車が……見えた! うっすらと遠くの方に、列車の先頭車両が見える。段々と近づいてくるのがわかる。木々が生い茂るなか、列車は走る。ノルマさんが叫ぶ。

「みんな広がって! 準備して」

おばちゃんたちは、20メートル間隔ぐらいで線路脇に立つ。さっきまで台所にいたぼくらは、エプロンをしたままだ。列車がぼくらの姿を認めたのか、大きな汽笛をあげる。

ボォオオオオオオオオオオ!

“野獣列車”でアメリカを目指す移民と、線路脇から走行中の列車に食糧を投げ入れる支援者たち。その一秒に満たない「一瞬だけの出会い」_1
ついに現れた野獣列車 撮影/嘉山正太
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ものすごい轟音だ。まるで巨大な動物が叫び声を上げているかのような。野獣列車のけたたましい雄叫びが響き渡る。

「来るよ! 気をつけて!」

列車はぼくらを飲み込みそうな勢いで迫ってきた。頰に風圧を感じる。レールの軋む音。巨体の野獣がまた咆哮をあげる。

ボォオオオオオオオオオオ!
ガゴンガゴンガゴンガゴンガゴンガゴン!

列車が横を通り過ぎていく。移民は? いるのか?