再度、野獣のもとへ

「え? 途中で止まった? わかった、そっちに向かうから」そう言って電話を切ったノルマさんは、主婦の人たちを集めて告げた。
「なにかあって、列車が止まったらしい。でも、移民の人たちはかなり乗ってたみたいだから、これからそこまで行って食料を届けるよ」

これから、「なにか」があって止まった列車のところに行くらしい。ぼくらは彼女たちのトラックに乗り込み、その列車の止まった地点へと向かった。トラックがパトロナスの村を駆け抜ける。

荷台にはぼくらと、食料と、靴などの支援物資など。緊張が走る。もしそこであった「なにか」が、危険なものだったらどうしよう。
「なにか、ってなんだろう?」
「まあ、いいことじゃないだろうね」笑いながらノルマさんは続ける。
「そんな暗い顔してちゃ駄目だよ。待ってる人がいるんだから」

強いな、と思った。言葉のひとつひとつに、長年困っている人たちを支えてきた彼女の矜恃を感じる。そして、ぼくらを乗せたトラックは、列車が止まっている場所へと到着した。辺りは薄暗くなりはじめている。だが、停止した列車の側に、人影はない。どうして止まったのか? なにがあったのか? 人々はどこにいったのか? そんなことを考えていると、突然、列車の影に人影が見えた。こちらの様子を窺っている人々がいる。そこでノルマさんが叫ぶ。

“野獣列車”でアメリカを目指す移民と、線路脇から走行中の列車に食糧を投げ入れる支援者たち。その一秒に満たない「一瞬だけの出会い」_4
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「食べ物、持ってきたよ!」

すると、一斉に物陰から、たくさんの移民の人たちが現れた。こんな人数がどこにいたんだ、というくらい、突然現れた。彼らはものすごい勢いでぼくらの乗るトラックに駆け寄ってくる。

「大丈夫、みんなの分あるから。押さないで」
あっという間にトラックは移民の人たちに囲まれた。

文/嘉山正太  写真/shutterstock

♯4続く

今回のエピソードを基に嘉山正太が脚本を執筆した、衝撃のオーディオドラマ『移民と野獣』(制作:SPINEAR)が、現在各種サービスで配信中です。ぜひご聴取ください。
https://www.spinear.com/shows/iminto-yaju/

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妖精とワニと、移民にギャング
嘉山 正太
“野獣列車”でアメリカを目指す移民と、線路脇から走行中の列車に食糧を投げ入れる支援者たち。その一秒に満たない「一瞬だけの出会い」_5
2022年9月26日発売
2,090円(税込)
四六判/276ページ
ISBN:978-4-7976-7417-0
移民問題の取材のためメキシコのベラクルスを訪れた、ネットメディア『ライトハウスポスト』記者・蛇ノ目悟(演:新祐樹)。移民支援施設で知り合った元ギャングの男・カルロス(演:江頭宏哉)の壮絶な過去を知った蛇ノ目は、謎に包まれたメキシコの真実を報道すべく、移民たちと共に「野獣列車」に乗り込む。アメリカを目指す危険な旅路の果てに、彼らを待ち受けている運命とは……。
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