再度、野獣のもとへ
「え? 途中で止まった? わかった、そっちに向かうから」そう言って電話を切ったノルマさんは、主婦の人たちを集めて告げた。
「なにかあって、列車が止まったらしい。でも、移民の人たちはかなり乗ってたみたいだから、これからそこまで行って食料を届けるよ」
これから、「なにか」があって止まった列車のところに行くらしい。ぼくらは彼女たちのトラックに乗り込み、その列車の止まった地点へと向かった。トラックがパトロナスの村を駆け抜ける。
荷台にはぼくらと、食料と、靴などの支援物資など。緊張が走る。もしそこであった「なにか」が、危険なものだったらどうしよう。
「なにか、ってなんだろう?」
「まあ、いいことじゃないだろうね」笑いながらノルマさんは続ける。
「そんな暗い顔してちゃ駄目だよ。待ってる人がいるんだから」
強いな、と思った。言葉のひとつひとつに、長年困っている人たちを支えてきた彼女の矜恃を感じる。そして、ぼくらを乗せたトラックは、列車が止まっている場所へと到着した。辺りは薄暗くなりはじめている。だが、停止した列車の側に、人影はない。どうして止まったのか? なにがあったのか? 人々はどこにいったのか? そんなことを考えていると、突然、列車の影に人影が見えた。こちらの様子を窺っている人々がいる。そこでノルマさんが叫ぶ。
「食べ物、持ってきたよ!」
すると、一斉に物陰から、たくさんの移民の人たちが現れた。こんな人数がどこにいたんだ、というくらい、突然現れた。彼らはものすごい勢いでぼくらの乗るトラックに駆け寄ってくる。
「大丈夫、みんなの分あるから。押さないで」
あっという間にトラックは移民の人たちに囲まれた。
文/嘉山正太 写真/shutterstock
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