そこで活路を見出したのがYouTubeを中心とした『デジタル』の活用だった。

「元々、周囲の方々から『YouTubeをやったらいい』と言われていました。また、私が過去に出演した番組や講演などを観て、YouTubeチャンネルの運営で有数の実績を持つプロデューサーの方からオファーをいただいたこともあります。けれど、オフラインを重視したい気持ちが強く、どうしても前向きになれなかった。ただ、再び危機に陥らないためにも覚悟を決めたんです」

コロナ禍で月四桁の赤字に。窮地に立たされたオーダースーツブランドの復活劇_5

もちろん、YouTubeをフックに事業を成長させるのは容易ではない。近年は芸能人やインフルエンサーたちの参入が増え、YouTubeは飽和状態だとも言われている。勝もそのことは十分に承知していた。

だからこそ、どうしても譲れないことがあった。それが、競争が激化するYouTubeでチャンネルを成功に導く「パートナー」の存在だった。数多くのオファーがあった中で勝は「この人しかいない」と、あるWebマーケターを指名した。

「オンラインゲームで世界一を取ってトップに立ったこともある方で、私が描く世界やスケール感も共有できました。本質を深く掘り下げる姿勢や私が想像をしていないくらい大きな目標を掲げるところも、支援をお願いしたいポイントになりました」

勝のこの決断は、YouTubeチャンネルだけでなくRe.museの命運も左右することになる。

活路は絶対にあると信じ続けた

勝のもともとの知名度などもあり、2020年11月に開設された「勝友美-VICTORY CHANNEL-」は3ヶ月ほどでチャンネル登録者3000人まで順調に伸びた。

しかし、ここで登録者の伸びが止まり踊り場を迎える。毎日配信するために、企業経営のかたわら膨大な時間を撮影などにとられ、動画のための人件費や製作費にも予算を投下し続けなければならない。「この時は模索の時期ならではの辛さがあった」と勝は率直な思いを吐露するとともに、数々の危機を乗り越えてきた経験から手応えも感じていた。

「制作チームの雰囲気がポジティブで『絶対に活路はある』と信じていましたね。Webマーケターの方も何か伸びる兆候があれば、いつでも報告してくれる。それくらい前しか向いていませんでした」

コロナ禍で月四桁の赤字に。窮地に立たされたオーダースーツブランドの復活劇_6

この前向きな努力は、やがて一筋の光を示した。それが、ほぼ全ての動画を「YouTube ショート」で配信するという戦略だった。当時、日本国内で新機能だったYouTube ショートを活用した事例はほとんどなかった。しかしWebマーケターが行ったデータ分析やYouTubeというプラットフォームに対する膨大な研究を踏まえて、大きく舵を切ることを決めたのだ。

また動画の内容も大幅に見直した。これまでは、ビジネスパーソンに役立つ思考法などが内容のほとんどだったが、YouTubeショートの配信をスタートしてからは時事ネタに絡めた動画や勝の「結婚観」など、よりパーソナルなことに踏み込んだコンテンツも配信。また、寄せられた質問に対してもYouTubeショートで積極的に回答するなど、視聴者とのインタラクティブなコミュニケーションも強く意識した。

特に、視聴者からの質問に対してはできる限り率直に「本音」で答えてきた。中にはタイトルに「超辛口」と入っている動画もあり、それは勝が質問に対して本気で答えている裏返しでもある。

タレントではない経営者という立場を踏まえると、このような動画を配信するのはかなりのリスクを背負っているとも言える。ともすれば、Re.museが築いてきたブランドにも傷がつきかねない。しかし視聴者が何を求めているか真摯に考え、取りうる限りのリスクを取った結果、勝のYouTubeチャンネルの運命は大きく動き出す。