まずは生地を織るところから。採算は度外視!?
――金銀の羽織は見つかったんですか?
見つかったというか、この人ならなんとかしてくれるかもしれないと思う人に連絡をして。まず生地を織るところから始めて。見本として20パターンくらい作ってもらったのかな。 この感じでもうちょっと綺麗に見えるようにできないかなとか、もうちょい輝きがほしいよねとか、あれこれ言い合いながら試して。
――ついに完成した?
まだです。これだねというのが出来てから次は試作品を織ってもらって。見本は10cmくらいのものなので、それじゃわからないところもありますからね。納得できる生地が出来上がってから縫製をして、ようやく完成です。
――2人は喜んだでしょうね?
2人は中学の同級生で、他に仲間が6人いて、その子たちは既成の色違いに身を包んで、金さんと銀さんをセンターに8人揃って成人式に出席したんですが、そりゃもうすごかったみたいですよ。
衣装を返却しに来た時にはずっと喋っていましたから。どれだけオレたちが目立っていたかとか、オレたちがヒーローだったとか(笑)。
――尋ねにくい質問ですが、ビジネスとしては成立したんですか?
とんでもない、赤字ですよ。
この業界では通常在りモノをそのままレンタルした場合で2万円とか3万円とか、モノによっても違いますが、まぁそれくらいですね。で、フルオーダーの場合は製作費の半分をレンタル料としていただいて、1回目は赤字、2回目でトントン。3回レンタルしてもらって始めて利益が出るんですけど……。
2人には運よく在りモノが見つかったら、これくらいかなという金額しか伝えていなかったので、正直大赤字ですよ(苦笑)。
――正規の金額は請求できなかった?
できないですよ、2人の頑張りを間近で見ていたら。でもそれでいいやと思えたんです。今回だけだと思っていたし、大変だったけどすごく楽しかったし。スタッフとも「あぁ、終わったね」と話をして、次の年からはまたいつもの仕事に戻るはずだったんですけどね……。
――評判になってしまった?
金さん銀さんの成人式が終わってすぐに、「後輩なんですけど」とか「◯◯さんから紹介されて」とか「式を見て」とか、男の子たちが次から次へとお店にやって来るようになって。最終的にはその翌年には200人を超えてしまって(笑)。
――しかも、リクエストは年々エスカレートしていくわけですよね?
そうなんですよ。2年目は「金さん、銀さんより目立つものを!」になるし、3年目は「さらにその上を」という注文が付く。苦労して苦労して、もうこれ以上のものは無理!って毎年思うんですけど、新成人にとってはその“これ以上は無理”というのがベースなので、「もっと派手に、もっとすごいものを」と言って来る。