漫画家になって楽しかったのは最初の1年ぐらい(江口)
本宮 江口さん、40年以上前から女のコ描いてるじゃない? それが未だに描いてる女のコのかわいさは変わってないじゃん。すごいなと思ったのは江口さんが何十年も前に描いた絵と今の絵に妙なギャップがないっていうこと。大昔から感覚的にそういうことが目に入ってたんだと思って。
これだけイラストとして成立してるものが漫画で動き出したらすごいね。イラストレーターは漫画家になれないってさっき言ったけど、漫画家で唯一イラストを描けてる江口さんは、逆にイラストに近い躍動感のある漫画、これを描けたらすごいんじゃない?
江口 すごいと思います。自分でも見てみたいです。ただ、さっきも言ったように全部をこの絵で描いた漫画が本当に描けるかどうか。
漫画の描き方も変えなきゃいけないですよね。台詞減らしたりとか。なかなか難しいと思いますね。決めコマだけ描くとかね。
『すすめ!!パイレーツ』(1977〜1980年)の時は本当に絵のことは何も考えて描いてなかったから、一日で描き飛ばしてたなぁ。でもあのときは楽しかったのかもしれない。
漫画家になって楽しかったのは最初の1年ぐらいですかね。集英社の執筆者室にこもって描いてたときが一番楽しかったかな。ただ他に何もできないからな。他の仕事って考えたこともないし……後ろ向きなことばっかり考えちゃう。下描きを誰かがしてくれたらいいなと思いますね。
本宮 楽よ(笑)。下描きが出てくると「違うだろ、これ」とか思いながら、ペンを入れていって。そのときは楽しいですよ。
江口 それはいいな。
本宮 うまく女っぽい絵を描くコいっぱいいるじゃん。江口さんの下描きをそういう連中にやってもらって。
江口 僕の場合、そっくりな絵を描くイラストレーターもいっぱいいるので、やってもらおうかな。
本宮 やってみてダメだったりつまらなかったら、やめちゃえばいいだけのことで。
江口 そうですね(笑)。やりたいようにやるのが一番ですね。
企画展 江口寿史イラストレーション展
「彼女 -世界の誰にも描けない君の絵を描いている-」
流山市を拠点とする「千葉パイレーツ」の活躍を描いた漫画『すすめ‼パイレーツ』や、『ストップ‼ひばりくん!』などで知られる漫画家・江口寿史(1956~)は、同時代の若者の音楽やファッションを取り込んだ作風などによって、その後の漫画のスタイルを変革し、多様なジャンルのアーティストに影響を及ぼした。
早い時期より作画への関心を深め、やがて音楽アルバムのジャケットや化粧品とのコラボなどによって、今や日本を代表するイラストレーターとして活躍中。
本展覧会では、江口の45年の軌跡を約500点の魅力溢れる作品で紹介する。
撮影/尾形正茂(sherpa➕) 取材・文/米澤和幸(lotusRecords)
©本宮ひろ志/サード・ライン
©本宮ひろ志/集英社
©江口寿史