何も描くことがなくて困ったら、エロ、おばけ、暴力(本宮)
本宮 だから俺は楽なことしかしてないんですよ。
江口さんは今、女はどういう描き方してるわけ?
江口 自分自身が“いく女”をイメージして。「こんなんじゃまだいかない」って(笑)。
そこは粘りますけど、「脳を描く」っていう言い方はすごく腑に落ちました。
僕はその人の生活もまるごと描こうとしてます。直接絵には描くわけじゃないけど、その人が営んでいるであろう生活をまるごとイメージして。
本宮 何も描くことがなくて困ったときっていうのは、エロ、おばけ、暴力、この三つが一番手っ取り早い。
「週刊プレイボーイ」という雑誌があって、「そこで連載やれ」って言われたときに、それまで俺ずっと子どもの漫画を描いてたわけだから、エロが解禁されるわけ。そこで頭にボーンと浮かんだのは、やっぱりエロ漫画を描こうっていうことなんですよね。
それまでのエロ漫画には、いわゆる日活のポルノ映画の女優みたいなのばっかり出してるから。そうじゃなくてアイドルを片っ端から脱がしちゃえばいいじゃんと。楽しめたね、あれは。
江口 『俺の空』(1976〜1978年)、これも一世を風靡した漫画でしたね。
本宮 比喩としてのポルノ女優を使ったような描写じゃ、それまでのエロと同じだからっていうんで、アイドル系のかわいい女のコを登場させた。
かみさんには、少女マンガに出てくるようなかわいい女のコの下絵を描いてもらったんですよ。それがまぁ、大学生以上の男子にはちょっとは読んでもらえるかなと思って描いたんだけど、蓋を開けたら高校生の女の子が回し読みしてたんだよ。これは勝ったと思ったね(笑)。
ギャグはカミソリだよ(本宮)
江口 素晴らしい。
ところで先生はしょっちゅう、漫画はもう嫌だとかやめるとか発言されていますけど、いまだにしっかり描いてらっしゃるじゃないですか。そのモチベーションはどこから来るんですか?
いまだにヤンジャン(「週刊ヤングジャンプ」)とか、そうした場で描いてらっしゃるっていうのはすごいことですよね。
『やぶれかぶれ』の頃しかり、本宮先生の漫画以外のアンテナというか発想力というか、そういうセンスも含めてすごいスリリングに見てましたけどね。漫画界にそんな人、あんまりいないじゃないですか。
本宮 体質的に漫画家じゃないよね。
江口 いつももっと先を見てらっしゃるというか。最初にお会いしたときに僕のギャグ漫画のことを褒めてくれたんですよね。
「ストーリー漫画はナタでぶっ叩くようなもんだけど、ギャグはカミソリだからね。大変だと思うよ。だから俺はギャグ漫画家は尊敬してんだ」って言われて。わあ、すごいな、この人わかってらっしゃるなと(笑)。
それが次にお会いしたときに、「ちょっとカミソリ鈍ったんじゃねえか?」って(笑)。
本宮 カミソリは切れなくなるの、あっという間だからね。
江口 そうなんですよ。それ言われました(笑)。
本宮 鳥山明さんにはね、「あんた、日本刀だよ」って言って。「でもな、日本刀はすぐ押入にしまっちゃうから気を付けたほうがいいぞ」って。それで、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治さんが「俺は何ですか?」って言うから、「おまえは生活必需品だから、ナタだな。だから長持ちするよ。切れ味は鈍いけど長く使えるんじゃないか」って。
じゃあ、本宮さんは何ですか?って聞かれたから、「俺なんか刃、付いてねぇ丸太だ。殴り飛ばすだけ」って(笑)。