12年前は「いくらなんでも無理でしょ」と思ったが……
ここに一冊のパンフレットがある。
表紙に描かれているのは、元アルゼンチン代表のガブリエル・バティストゥータ。さらにページをめくれば、彼の他にも同じ「招致アンバサダー」の肩書きで、ジネディーヌ・ジダン、ジョゼップ・グアルディオラら、元世界的スター選手の顔が並んでいる。
このパンフレットが何かと言えば、2010年12月にスイス・チューリッヒで開かれたFIFAコングレス、すなわち2022年ワールドカップの開催国を決定する会議で配布されたプレス資料。カタールが「我が国でぜひワールドカップを開催させてほしい」とアピールするために作られたものだ。
12年前、これを初めて見たときの率直な感想は、「いくらなんでも無理でしょ」というものだった。すでにカタールには何度も取材で訪れていたが、2010年当時のカタールは徐々に近代的な発展が進んでいたとはいえ、依然としてまだまだ素朴な、悪く言えば何もない国だったからだ。
にもかかわらず、このパンフレットには壮大な“夢の世界”が記されていた。
曰く、「ドーハを中心に地下鉄網を張り巡らせ、すべてのスタジアムに地下鉄でアクセスできるようにする」。また曰く、「試合会場として12のスタジアムを用意し、スタジアム内は冷房完備。大会後、一部のスタジアムは解体、あるいは規模を縮小することで、建設資材は再利用できる」など。
当時のドーハと言えば、地下鉄は存在せず、スタジアムにしても小規模なものがほとんど。そんな現実を無視するかのように、さながら未来都市を思わせるスタジアム完成予想図が多くのページを割いて描かれていたのである。
大会開催はまだ先とはいえ、それでもたかが12年。その間に、こんな設備が本当に整うのだろうか――半信半疑というより、ほぼ疑いだけを持ってこの資料に目を通していたのだが、その後の投票でカタールはワールドカップ開催国に選ばれ、(選考過程での不正疑惑を指摘されながらも)実際に大会の開催に至ったわけだ。
そこで、中東初開催のワールドカップが幕を閉じた今、12年前のアピール資料をあらためて見直し、どこまで夢の世界が実現したのかを確かめてみたい。