“夜討ち朝駆け”の日々。モノを言ったのは気力と体力

新人記者の支局配属は新聞社の慣例で、そこでは政治からスポーツまで、あらゆる取材・執筆を経験し、力を養う。長野さんも実地で多くを学んだ。それも急激なスピードと、猛烈な情熱で。

「支局の取材は、まずは事件・事故、あとは野球ですね。午前中に3時間運転して事件現場に行き、午後には戻って高校野球の取材をすることもありました。

いわゆる“夜討ち朝駆け”もよくやりました。私が水戸支局に居た時は、刑法犯の事件件数が多い時期だったんです。未解決事件も多かったので、昼間は県警本部の記者クラブ室に詰め、朝になると担当の警察官の家に行く感じでした」

“夜討ち朝駆け”とは、深夜や早朝に取材先を訪れて、公式の会見等では聞けないコメントやヒントを得る手法のこと。そのような苛烈な取材を重ねる時、モノを言うのは体力、そして探求心だ。

「気力・体力があるんですよね。そこはやはり、アスリートの基礎がすごく役に立ったと思います。私がプロでやっていた時のテニス界には、伊達さんをはじめ世界のトップで戦う日本人がたくさん居た。その方たちの『やるぞ!』と決めた目標に対する入り込み方は、ちょっと他の人たちとはレベルが違ったんです。

私はあの域までは行けなかったけれど、そういうのを見ていたので、それが普通と思っていたところもありました」

知りたいことがあれば、現場に足を運んで自分の耳目で見聞する。気になる情報があれば、関係者を渡り歩いて裏取りを徹底する。

実直な姿勢で実績を積み上げた長野さんが、記者としての力を急速に身につけたのは当然だったろう。

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ゴールデングローブの授賞式を取材する長野さん

2015年に長野さんは、自ら志願して、ロサンゼルス支局に異動する。アメリカの西部を中心に、事件裁判から映画や野球のメジャーリーグまで、あらゆるジャンルの取材に邁進した。

とりわけ印象に残っているのは、もとより興味のあった「再犯防止」。刑務所内で受刑者たちが大学の講義を受け、その後の人生が大きく変わっていく姿を取材できたことは、長野さん自身にとっても人生観が変わる体験だった。

加えて多くの時間を割いたのが、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの対決となった、2016年大統領選挙の取材である。