アウトドア業界を揺るがす「大発明」

アークテリクスは、1996年にゴアテックス(GORE-TEX)ライセンスを取得する。このことはアークテリクスのアウトドアブランドとしてのモノづくりが対外的に認められたことを示す。それほどまでに当時、ゴアテックスのライセンスを取得するのは難しいことだった。

そしてブランドの威信をかけた最高パフォーマンスシェルの開発という至上命題を、フラッグシップモデル「アルファ SV ジャケット(ALPHA SV JACKET)」の誕生を持って達成。これは1998年のことであり、時を同じくして、いまなお同社のアイコニックな存在としてロングセールスを続けるバックパック「アロー 22 バックパック(Arro 22 Backpack)」も登場した。

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「アロー 22 バックパック」(写真提供/アメア スポーツ ジャパン)

バレット型のアウトシェイプを持つそれは、アウトドアらしい頑丈なナイロンとマットな防水素材がコンビネーションされ、黒のワントーンで統一。そして「カンガルーポケット」と呼ばれるフロントポケットの中心には、鈍く光る線が一筋走る。それこそが90年代のアウトドアの大発明と言われる「止水ファスナー」だ。

ファスナー部分から水が侵入するのを防ぐためにテープで覆われたファスナーは、いまでこそ当たり前の存在となっているが、当時はYKKとアークテリクスが共同開発したセンセーショナルな新素材だった。

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アークテリクスの大発明とも言える「止水ファスナー」(写真提供/アメア スポーツ ジャパン)

しかも当のアークテリクスはアウトドア業界の発展のため特許などを取得せず、YKKの商品ラインナップのひとつとして展開されることを承認する。そのため止水ファスナーはウェアを中心としたアウトドアアイテムへと瞬く間に普及し、定番パーツとなっていったのだ。

しかしアークテリクスは“見せ方”が一枚も二枚も上手であった。どこかモードな雰囲気を漂わすこの革新的な新素材を類稀なるデザイン力で見事にプロダクトへと昇華させたのだ。そんな止水ファスナーを印象的に使ったアイテムのひとつがアロー22であり、止水ファスナーがバックパックのデザイン性の決め手にすらなっている。

余談だが、アロー誕生から4年後の2002年、当時高校3年生だった筆者もアローを入手している。まだアメアスポーツジャパンが国内ディストリビューターを務める前の話であり、町田の東急ハンズにて入手したことを昨日のことのように思い出す。

当時でも20,000円を超える高価なバックパックであり、そのためアロー22には手が届かず、ひと回り小さい「アロー 16 バックパック(Arro 16 Backpack)」を購入。今も手元に残るそれは、思い返すと自身の今の境遇の指針となるモノだったといえる。その体験をもってして感じることだが、アークテリクスの商品には人の人生に関わる決定的な何かが備わっている気がしてならないのだ。

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筆者が購入した「アロー 16 バックパック」(撮影/岡本546)