通貨、国際、株式「トリプル安」の悪夢

ロシアのウクライナ侵攻は想定外だとしても、エネルギー価格の高騰は予見できたことだ。脱炭素への流れは加速しており、膨大なCO2を排出する化石燃料は「座礁資産」となって投資マネーが急減する。その分、再生可能エネルギーまでの繋ぎとして天然ガスの需要が高まる。ロシアはその最大供給地のひとつだ。エネルギーだけではない。穀物も半導体も国際価格は右肩上がりだった。

以上、日米金利差拡大および資源価格高騰による経常収支赤字膨張というふたつの材料から見ても、円には構造的な下落圧力がかかっている。ここにさらに輸入インフレという要素も追加される。

それでも金融緩和にこだわる日本は出口の議論さえサボタージュしてきた。アベノミクスへの忖度だろうか。この期に及んで日銀は3月30日、2.3兆円の国債を購入したが、これは9年ぶりの規模だ。金利抑制をいつまで維持できるかまったく見通しは立たないが、できるところまで続けるという無責任さだ。

黒田日銀総裁は「円安の影響は不均一だ」と言う。その通り。一部の大企業や富裕層は恩恵を受けるかもしれないが、それが日本経済全体に染み渡ることはない。特に内需型の中小企業や家計は、円安スタグフレーションに絞り上げられることになる。

マーケットはこの政策の不整合性を冷静に見つめている。

ここでもっともシンプルで古典的な通貨投機を想定してみよう。現行の為替レート、かりに1ドル=124円で先物決済の契約を結ぶ。期日はアメリカの利上げが確実な次回5月3日のFOMC(連邦公開市場委員会)、あるいはその次の6月14日でもいい。この利上げは従来の0.25%ではなく0.5%の大幅アップを予想する声もある。 

そこに向けて低金利で安い円を借りて売り浴びせたらどうなるか? 
防衛のための為替介入は、そもそも日本単独では効果はないし、頼みのアメリカもインフレ抑制に強く軸足を移しており、ドル売り円買いはありえない。それでもし1ドル=130円にまで円が下落し、さきの契約を決済したとすれば、1ドル当たり7円の利益となる。

問題は、そうした事態になった時、日本の長期金利は市場に委ねた自然な上昇率を上回り(国債価格は下落し)、しかも円安が加速してインフレ圧力がさらに高まり、財政赤字膨張が避けがたくなるということだ。

弱い円は今、売り材料に溢れている。通貨、国債、株式のトリプル安もありえる。いずれにせよ政府・日銀の「楽観バイアス」は格好の投機のターゲットとなることだろう。