日銀はいつまでアベノミクスに忖度するのか

1年前の円相場は1ドル=105円前後だった。それが今年の年明けに1ドル=116円と5年ぶりの安値をつけ、さらに4月13日には一時1ドル=126円と20年ぶりの水準にまで急落した。

円はドルに対して1年間で20円ほど安くなり、その傾向は加速している。対ドルだけではない。対ユーロでも対ポンドでも異例の安値水準だ。円は著しく弱くなっている。

その材料の第一は、日米の金利差だ。通貨は金利の高い方に動く。アメリカの金利が日本よりある程度以上高ければ、円をドルに替える材料になり、円売りドル買いで円安になる。

アメリカの利上げはすでに市場に織り込まれていたが、FRB(米連邦準備理事会)は3月16日に予想通り政策金利を引き上げた。以降も年内に7回は利上げを追加すると見られている。これでアメリカの長期金利が一時2.5%にまで跳ね上がった(国債価格は下落した)。

イングランド銀行も利上げを実施し、欧州中央銀行(ECB)も金融引き締めを明らかにしている。世界の金融政策はインフレ抑制に軸足を移し、国際的に金利が上昇しているから、日本の長期金利も上がらないと不自然だ。

しかし、日銀はこの不自然を押し通している。長期金利に連動する国債利回りを提示し、その「指し値」で国債を無制限に購入するという強硬策に踏み切ったのだ。

周知のように「デフレの克服」を公約した安倍政権は2013年1月、「物価上昇率2%を目標とする金融緩和」について日銀と共同声明まで出して金融政策を縛った。これがアベノミクスの根幹だ。

だが、物価上昇率はいまだ2%に達していない。これで日銀が金融緩和を修正すれば、アベノミクスは9年以上かけてもデフレを克服できなかったことになる。当然、政府は野党の質問の矢面に立たされるから、日銀は義理が立たない。

義理でなくても、日本経済はそもそも利上げに耐える力が弱い。財務省の試算では、長期金利が2%上昇すれば(アメリカ並みに追いつけば)、財政赤字(国債費)が翌年度に1.6兆円、3年後には7.6兆円膨らむ。ほぼ消費税2%分だ。長期金利上昇は国債価格の下落を意味するから、金利が1%上がれば銀行の保有資産は9兆円ほど減る恐れもある。

中央銀行の政治的独立性は大切だと学校で習ったが、つくづくその通りだと思わざるを得ない。主要国が続々と金融緩和からの出口をアナウンスし、インフレ予防に軸足を移していたのだから、日銀もその世界の流れに柔軟に対応するべきだった。

しかし、黒田東彦総裁は物価上昇率2%にこだわり、緩和維持を強調するばかりだ。安部氏に対する忖度を続けている場合ではない。まずは率直にアベノミクスを総括し、柔軟な金融政策の見直しと、財政再建への意気込みだけでもマーケットに伝えるべきだった。