円安が円安を呼ぶ負のスパイラル
ただし、日銀だけを責めるのは筋違いだろう。政府が金融政策に介入し、手足を縛っていたのだから。黒田総裁が繰り返し発言していたように、異次元と言われる金融政策の前提は、財政再建と賃上げだった。
量的緩和で細心の注意を払うべきは財政規律の緩みであり、また物価が2%上昇しても賃上げがそれに追いつかなければデフレ克服とはならない。
なのに財政も円安・低金利に甘えていた。反省どころか、安部元首相はさらなる積極財政を主張して憚らない。これに追従する一部の国会議員たちも「インフレにならないかぎり」と断ったうえで、「自国通貨建ての国債発行による財政赤字は心配することではない」とまで言い出す始末だ。
これが経済学者の仮説ならまだ許せるが、政治家が口走ることではない。借金を返すためにさらに日銀が借金を立て替えると、貸し手にあらかじめ通告しているようなものだ。
中央銀行の国際的信認は、通貨の信認に直結する。その通貨が堕落すれば、財政赤字はさらに膨張する。足元にはインフレが迫っている。アメリカと日本の金利差は拡大するだろう。しかも日銀のゼロ金利維持も持続不能だ。このままでは金利も物価も上がる最悪のシナリオが現実になりかねない。
こんな大変なときに、プーチンがやらかした。米欧日はウクライナに侵攻したプーチンを懲らしめるために最大限の経済制裁を課した。ロシアは世界有数の資源国だ。結果、資源価格は高騰する。
円安第2の材料は、経常収支赤字である。日本の貿易収支は7ヶ月連続の赤字。エネルギー価格の高騰で2月の輸入は34%増えた。高い原油を買うためには円を売ってドルに替えなければはならない。円売りで円安になり、円安になるから原油輸入価格はさらに上昇する。円安が円安を呼ぶ悪循環、「円安スパイラル」だ。