「面白さ」で勝負するAマッソ

「上の世代の方は個人で戦わないといけないことが多いし、芸歴が浅いままテレビでの露出が増えると、劇場で戦ってきた仲間もおらんままバッとテレビに出なきゃいけない。(略)やっぱり孤独そうやなって思うことが多い」

これは「そんなストロングスタイルで女がやってても……」と長年言われ続けてきたコンビ・Aマッソの言葉だ。

ストロングスタイルというのは、ネタの面白さのみで勝負する芸人という意味。特徴的な見た目でもなく、いじられて面白くなるタイプでもない。劇場で地道にネタをやり、YouTubeでは後輩も巻き込んで凝った企画を配信して、熱狂的なファンを生み出してきた。売れるまでのスピードが早い女性芸人とは真逆のルートで、現在テレビへの露出をぐんぐん増やしている。

加納が言うように、テレビに一本釣りされた女性芸人は「点」のまま孤立する。

収録前にディレクターと打ち合わせし、本番が始まり、終わればそこで解散。テレビでブレイクした女性芸人たちの孤独は、このインタビューでもたびたび語られてきた。加納はそこに一歩踏み込む。孤独な女性芸人の、その点と点を繫いで、線にしていきたいと。女同士で番組をやって、女同士でツッコミ合って、女が女を面白くしていく。拙著『女芸人の壁』のインタビューで女性芸人のシスターフッドを語ったのは、加納が初めてだった。

加納のような女性芸人が増えているということは、少しずつテレビが女性芸人の「中身の面白さ」に目を向け始めている証でもある。女性芸人に求められるものを、女性芸人の力で変えていく、それが今なのかもしれない。猛スピードで変わっていく価値観の、その渦の真ん中から、女性芸人は何かを摑んで這いあがろうとしている。

写真/shutterstock

#1「なぜM-1グランプリで女芸人は優勝できないのか?」

女芸人の壁
西澤千央(文藝春秋)
「芸人」ではなく「女」の仕事をさせられることに声を上げ始めた女芸人たち_1
2022年11月9日
1650円(税込)
単行本 246ページ
ISBN: 978-4-16-391623-1
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