撤退するスズキを“見返す”リンスの圧巻の強さ
MotoGPのイタリア人チャンピオンは世界的スーパースターのバレンティーノ・ロッシ以来だが、バニャイアはそのロッシに見いだされ、彼が運営するアカデミーで頭角を現してきた、いわば愛弟子でもある。
「決勝前日にこのプレッシャーのことをバレンティーノに話すと、『誰もがその感情(プレッシャー)を抱けるわけじゃない。だから、それをむしろ誇りに思うべきだ』と諭された。
『プレッシャーや不安や恐怖は、当然感じるだろう。でも、その感情を抱いていることを幸せに思って、楽しめばいい』、その言葉を今日のレースで実践しようとしたけれども、あまり上手くいかなかった。でも、そんなふうに言ってくれる人が自分の師でありリーダーであることを、とても誇らしく思う」
すでに述べてきたとおり、イタリア企業ドゥカティは15年ぶりの悲願達成で、完璧なイタリアンパッケージという意味ではアゴスチーニ以来50年ぶり、そしてそれを達成したのがロッシの愛弟子であること等々、彼らの達成した偉業を数えていくと枚挙にいとまがない。
今シーズンのドゥカティは8台のマシンが参戦しており、MotoGP全24台中の実に1/3を自社バイクが占める最大勢力であったところにも、彼らの強さの一端がよく現れている。
一方のクアルタラロは、彼が駆るヤマハのマシンがドゥカティと比べて非力である分、シーズン最終盤のマレーシアGPと今回のバレンシアGPで、ライダーが持てる技術と気力のすべてを出し尽くして果敢に攻めの走りを続けた。
それでもドゥカティライダーたちの牙城には届かなかったという事実は、企業の勢いの差を象徴しているようにも見える。
さらに今回のバレンシアGPでは、このレース限りでMotoGPから去ることになったスズキのマシンを駆るアレックス・リンスが圧巻の強さを見せて優勝を飾った。シーズン開幕後の5月になってスズキ株式会社が発表した、あまりに突然で一方的なこの撤退通知は、人々を大いに驚かせ、戸惑わせた。
なにより、スズキブランドを愛する世界中のファン(≒潜在顧客)にしてみれば、長年のレース活動というスポーツ文化の価値と財産をないがしろにし、自分たちの企業に対する愛着を無価値と切り捨てたに等しいこの意志決定に、裏切られたような思いも感じたことだろう。