14人もの声優が参加した人気ミステリー小説
「目玉の奪い合い」という言葉はSNSが出始めたころに、ユーザーの視聴時間をネット、テレビ、活字コンテンツなどが争ったときに形容されたものである。現在、その主戦場は「耳」に移ったようだ。
オーディオブック販売の国内最大手・オトバンク(東京都文京区)が運営する「audiobook.jp」は2019年からの3年間で会員数を3倍に伸ばして、現在250万人以上、登録書籍の数は数万冊を超える。オーディオブックとは本をナレーターらが朗読して録音、それをユーザーがパソコンやスマートフォンで「聴く読書」のための本のこと。同社には月額1000円で聴き放題となるサブスクリプションサービスがあるのが特長だ。
ではどんな「本」が読まれているのか、同社オーディオブックコンシェルジェを務めている羽賀抄子さんに案内をしてもらった。
同社はユーザーからの投票で「オーディオブック大賞」を選出しているが、今年の文芸部門の大賞と準大賞が次の2作だった。
『invert 城塚翡翠倒叙集』(相沢沙呼著、講談社)
『推し、燃ゆ』(宇佐見りん著、河出書房新社)
『invert 城塚翡翠倒叙集』は、「このミステリーがすごい!」1位などミステリー五冠に輝いた『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の続編である。受賞理由はなんだろうか。
「まず朗読に14人の声優さんが参加されていることです。効果音にもこだわっていて、ラジオドラマのように物語が進んでいきます。相沢先生にもこの演出を気に入っていただき、SNSで推していただいたのも大きかったです」(羽賀さん)
そう、「本を朗読」といっても、パソコンの読み上げ機能のように無機質な声が淡々と文章を読んでいくのではないのだ。声優さんの感情を込めた台詞、間などが文字だけの世界から立体的に物語を構成していくので、ユーザーは原作の新しい魅力を発見することになる。もちろん、準大賞の『推し、燃ゆ』のように一人の声優、ナレーターが読んでいく構成になっているものも多い。
大賞には選出されなかったが、小澤征爾の青春自叙伝『ボクの音楽武者修行』(新潮社)では、文中に出てくる1960年代のスクーターの音を再現するために、同社の制作ディレクターがわざわざ当時のバイクを探し出して、音を録りに行ったそうだ。
ビジネス本など、他のオーディオブック大賞受賞作品はこちらから。