『戦争めし』連載のきっかけとなった一枚の絵
――2018年にNHK BSプレミアムでドラマ化もされた『戦争めし』。戦争を扱う漫画や映画は数あれど、戦時中の食にフォーカスした作品は非常に稀有だと思うのですが、きっかけは?
漫画の仕事で食えなくなり、新しい連載案を企画していたときにふとテレビをつけると太平洋戦争のインパール作戦経験者の方が描いた一枚の絵が写されていたんです。
それは、やせ細って無精ひげを生やした上半身裸の軍人が飯盒(はんごう)を持っている絵でした。
なんか引っかかったんですよね。なんで飯盒だけを持って歩き回っているのか、と不思議に思ったんです。
調べてみると、当時の日本軍は一人ひとりに戦地で自炊することを推奨していたことがわかりました。世界的にも戦地で兵隊が各々自炊するのは日本だけだったらしく、そのために飯盒を持参していたとのこと。飯盒が壊れてお米が炊けなくなってしまった……なんて話もあったみたいです。
そして、その日がたまたま終戦記念日だったのもあり、『戦争めし』のアイデアがひらめきました。
――終戦の日が『戦争めし』のきっかけだったとは感慨深いです。
ただ、戦争というセンシティブなテーマだったので、どの出版社に持ち込んでもお断りされてしまいましたね。
何度もネームを描いては、ボツになる繰り返しで、ネームは溜まるばかり。しかし、終戦70年という節目のタイミングで、2015年に秋田書店さんで描かせてもらうことになったんです。
『戦争めし』は、戦地での玉砕という暗い話から、空襲下にもかかわらず自分で魚を寿司屋に持ち込んで大将に寿司を握ってもらうというこぼれ話まで、話のテンションがバラバラ。
それって実はネームをボツにされる度にネタの方向性を変えていたからなんですよ。結果的にエピソードごとの振り幅が広い、バラエティー豊かな内容に仕上げることが出来たんだと思います。
――次第に戦争経験者の方にインタビューをした話も増えていきましたね。お話を聞いてきたなかで一番印象的だった方は?
戦争の語り部さんに取材したことがあったんですが、基本的にあの人たちは何十年も戦争のことについて語ってきた方々なので喋りが流暢で話が本当にお上手。
しかし、僕が「戦争中に何を食べていましたか?」と聞くと、急に言葉を詰まらせたんです。
たぶん、戦時中の食についてわざわざ掘り下げて聞かれたことがほとんどないからだと思うんですけど、遠い昔の記憶をたどって思い出そうとしてくださるので、そのときってなんとなく戦争当時の若かりし頃の表情に戻っているように見えるんです。といってもそれは嫌な思い出というわけじゃなさそうで。
戦争自体には辛い記憶ばかりだったと思うんですけど、そんなときだからこそ食事が唯一の楽しみになっていたのかもしれないですね。
語り部さんが「これだけは旨かった」と回想する姿に、どの時代でも“ごはんを食べる”という人間的な喜びは存在するんだと、目頭が熱くなりましたね。