サラリーマンがめざせる究極のレース

多種の条件をクリアするため、出場準備には年単位の時間を要する。10年間を費やす者も珍しくない。トレーニングの一つである走り込みの距離も凄まじく、月間走行距離が900kmに達する者もいる。
新型コロナで遠くに行くことが出来ない今年、心肺能力を鍛えるために9kgの荷物を背負ってマンションの非常階段を週2回50往復した者もいた。絶句するしかない。

大会そのもののレベルも年々上がってきた。大会記録は4日23時間52分。その記録の持ち主は18kgの荷物を背負って東京マラソン(2015年)を3時間6分16秒でゴールしたギネス認定世界記録を樹立した猛者だった。

走行距離415km、累積標高差27000m、悲鳴、絶望、幻覚……日本一過酷な山岳レースに憑りつかれた男たちとは_4
大会記録保持者でギネス記録も樹立した望月将悟選手(写真中央・白いゼッケン)

ところが、2022年の今大会ではその記録を破ろうという”史上最強“の挑戦者が現れ、猛者たちによる大会史上に残る壮絶なデッドヒートが待っていた。

走行距離415km、累積標高差27000m、悲鳴、絶望、幻覚……日本一過酷な山岳レースに憑りつかれた男たちとは_5
大会記録を上回るペースで走る土井陵選手 撮影/Shimpei Koseki

こう記すと、大会出場の平均年齢でもある40代男性が少年時代に愛読した『北斗の拳』や『魁!男塾』にでも登場しそうなフィジカル・モンスターのような人物群を思い描いてしまうのではないだろうか。
視聴者からは「自分とはまるで縁のない話」との呟きが聞こえてきそうだ。だが、出場する30名の走力には、かなりのばらつきがある。

「僕みたいな普通のサラリーマンが頑張って手の届く、究極のレースです」

かつて取材にそう答えた選手がいた。
仕事は自動車メーカーの設計技師。そう、それこそがこの大会のミソなのだ。
抜きつ抜かれつの「レース」の緊張感が、番組のストーリーの主軸である一方で、実は中下位の選手たちの奮闘ぶりの「ドラマ」が、番組に彩りをそえてきた。
普段はスーツや作業着を着て、黙々と仕事をしているサラリーマンが、必死に努力して出場権を獲得して挑む、いわばサラリーマンのためのレース。賞金はなし。それが、このレースの特徴なのだ。
今年の出場選手の中にも、魅力的な言葉を発する者が多くいた。