「みんなしている」と言われ、相談できなかった子も

――生命(いのち)の安全教育では、どのようなことが期待されているのでしょうか。

性暴力への理解、意識が高まることが期待されます。また、既に存在する加害者への抑止力になるとも考えられますね。

被害に遭う子ども、特に小さい子どもは、自分が何をされているか分からないことが多いです。なんとなく「嫌だな」と思っていても、加害者に「誰にも言っちゃダメだよ」「みんなしていることだよ」などと言われ、相談する機会が奪われていることも少なくありません。

そのような子が、「これはおかしいことなんだ」と気づいたり、被害に遭いそうになった時に逃げられたり、被害に遭った時に周りに相談しやすいよう、大人が準備する必要があります。

――被害から子どもを守るために、教育と支援の準備を充実させるということですね。

はい。しかし、性暴力は大人からだけではなく、子ども同士やきょうだい間で起こっていることもあり、身近な存在の保護者や教員すら気付けないこともあります。被害者にも加害者にもさせないために、子ども一人一人が知識をつけることで、性暴力を防ぐことができればと思います。

被害にあった子どもたちは「被害を受けた自分が悪い」と考えている可能性があります。「自分がSNSを使っていたから悪いんだ」「自分が断れなかったから悪いんだ」と思い込み、親はもちろん、友達や教師などにも言えずに悩んでいるケースも多いです。

そういった子が授業をきっかけに「自分は悪くないんだ」と少し安心できたり、「相談してもいいんだ」と感じることができればいいなと思いますね。

――やられたほうは悪くない、悪いのはやったほうなんだという考えが広まってほしいですね。

本当にそう思います。

私が各地の学校に行って性教育について話すときは、どんなテーマであれ「嫌なことは嫌と言っていい」「自分にとって嫌なことをされそうになったら逃げていい」ということ、そして「でも、できないこともあるよ。できなくても自分を責めないでね」ということを伝えています。

知識を与えるだけではなく、現在起こっている被害に気づき、必要なケアや支援につながるきっかけになりうるという意味でも、「生命(いのち)の安全教育」にはとても大きな意義があると思います。