見たことないような作品が出来上がると思う
――先程も少し地方出身というお話が出ましたが、井上さんのご出身は福岡県。今作『しびれ雲』のセリフは作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)さんが作り出した架空の方言が織り込まれているのも印象的です。方言というキーワードにちなんで、日頃の生活の中で博多弁が出てしまう場面はあるんでしょうか?
博多弁が出ちゃうことはあまりないんです。もともとそこまで強い訛りはなくて。でも、イントネーションは未だに標準語と違うなってときはあります。アクセントについては正解がわからないものが結構あるんですよね。
――アクセントが難しいセリフも過去にはありましたか?
8月まで上白石萌音ちゃんと二人芝居をしていたミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』でも苦戦しました。萌音ちゃんは鹿児島県の出身で同じ九州だからか、同じところで迷うみたいで。例えば本棚って、標準語だと「ほんだな」っていうアクセントじゃないですか。でも、僕と萌音ちゃんは「ほんだな」って言うんですよ。それまで「ほんだな」が標準語だと思っていました。萌音ちゃんと「ほんだなの方が訛ってるよね」って話してました(笑)。
――微妙なアクセントの違いは、指摘されて気づくことが意外とありますよね。KERAさんが作った方言はマネしたくなるようなかわいさがあるように思います。
発明に近いですよね! 僕の役は謎の男で、どうやら舞台となる“梟島”の住人ではなさそうなので唯一、標準語を話す登場人物です。ここから少しずつ方言を話すようになるみたいなことは、KERAさんもおっしゃってたんですけど。方言の響き自体、すごくおもしろい。ただでさえ会話のやり取りがおもしろいのに、そこに方言が加わるってさらにおもしろくなってる感じはありますね。
――KERAさんの演出では、最初に少し決められている設定以外は、稽古しながら物語が完成していくと伺いました。物語冒頭の台本は出来上がっていますが、読んでみた感想は?
今のところ僕も、役名と島の外から来たってことしか知らないんです(笑)。でも、すごくおもしろいなと思いながら稽古しています。KERAさんも「大事件が起こるような話ではない」とおっしゃっていたんですけど、でもその分、島の人達の日常の営みやそこから見えてくる家庭の問題などがおもしろい。
「あまり大きな笑いが起こるようなことは求めてない」ともおっしゃっていたんですが、演じる上でそのさじ加減をどうしたらいいのか。あまり経験したことがないような作品ではありますが、共演者の皆さんと稽古しながら作っていると、「なんかすごいことしてるな!」と思います(笑)。誰も見たことないような作品が出来上がると思うと、演じる側の僕もすごく楽しみです!
――稽古中に台本が上がってくるスタイルということで、短期間での記憶力も勝負になってくると思うのですが、ずばり井上さんの記憶力は?
瞬発的な記憶力はいいと思います。覚えることも苦ではないので。でも、長期的なものはどんどん忘れていってます……。終わったことはすぐ忘れちゃう。
――1番古い記憶はおいくつ頃の記憶ですか?
そうですね…2〜3歳くらいの頃、住んでいた家のお風呂のお湯を混ぜる棒があったのは覚えてます(笑)。断片的な記憶ですね。全体的な流れまでは覚えてないです。中学の1年間、家族でアメリカに住んでいたとき、英語がわからなくてすごく大変で。それ以来、この1年より前の記憶が薄くなっちゃって。記憶喪失までいかないけど、アメリカ生活が必死すぎて、その前は何してたっけ?という感じになってます。