反射神経が問われる、お笑いの総合格闘技
このシステムの醍醐味は、「どこに座るかわからない」という椅子取りゲームの偶然性と、「座れなかった芸人が相手を指名できる」ことで生まれる高い戦略性にある。
つまり、椅子に座ることができた芸人は、戦わずして勝ち上がる確率は高まるが、不得意なお題に座る可能性がある。一方で、座れなかった芸人は得意ジャンルを選んだり、実力のある芸人との戦いを回避したりすることができるが、絶対に対戦をしなければいけないため、早期敗退の可能性がある。
番組は「即興ネタを競い合う、お笑いの総合格闘技」とこのシステムを称しているように、椅子取りゲームによって“準備”を封じられるため、笑いの反射神経が随所で求められる、じつに身体的な内容であるのは間違いない。
千原はこのシビアでストイックなお笑い番組をはじめるにあたって、ある危機感が念頭にあったという。
「俺らが吉本に入った頃って、純粋にお笑いだけの番組がまだあったんですよ。でも放送がはじまった当時(特番は2017年からスタート)って、お笑いだけの番組が関西にすらあんまりなかった。それは良くないと思っていたんで、若手も含めて、いろんな芸人が参加できるようなものになればなと」
若手の登竜門としての地位を築いた『座王』
番組開始当初は、大阪吉本所属の若手~中堅芸人が数多く参加。かまいたち・山内や、霜降り明星・粗品、アインシュタイン・稲田なども座王を獲得しており、人気芸人の登竜門ともなっている。
キングオブコント決勝に出場したロングコートダディ・堂前や、関西を拠点に活動するミサイルマン・岩部(武将様)など、番組から知名度を向上させた芸人も多い。近年は東京や他の事務所から参戦する芸人も増えており、関西ローカルに留まらないスケールを獲得。
「関西ローカルだからやっている、みたいなこだわりはないですよ」ときっぱりと語る千原の目には、後輩芸人たちの成長の場として『座王』を維持しようという力強さが滲む。
「東京で道を歩いていても、“『座王』見てます”と言われることも増えましたし、東京で仕事をしている芸能人の方もけっこうチェックしてはるみたいで。やっぱり、俺らの若い頃にはなかった配信があるから、番組が広がりやすくなっているのは実感としてありますね。だから、関西だからこうする、ということもないし、広がるならもっと広がるようにしていきたい」