絵を見るときの視点
——絵を見る側の好みというのは時代とともに変わったのでしょうか?
伊野 西洋古典絵画の序列では、「宗教画」「歴史画」がエライとされていて、そこで勝負するために、画家もリアルに描くことが必須、見る人もそこに感心する――そういう時代がずいぶんと長かったんですね。
伸坊 ダ・ヴィンチがね、あそこまでうまく描いちゃったからね。油絵具が発明されて、スフマートっていう薄―く塗り重ねていく技法も生まれたし。もう前に戻るわけにはいかなくなっちゃった。発注する側は、このクオリティーを求めてくるよ。
伊野 ルネサンスの頃に発明された「カメラオブスクラ」という光学装置も大きいですね。リアル度が一気にレベルアップした。でもその装置、画家たちの秘密だったんです。そんなの使ってたなんて知らなかったよー。
伸坊 知らないよね、普通は。まあ、その時点ではいちばん人間の見てる感じに近かったんですよ。実際の目は、その都度ピント調整したり、動いているから、いろんなところで矛盾が起こる。それが、レンズを通すと、かなり近いぞっていうのはあったと思う。
伊野 西洋美術がリアルを求めたせいか、一般的にも「デッサンは絵の基本」だと言われてるけど、なんか嘘があるんじゃないかと思ってました。ピカソのキュビスムもデッサンが基本なの? そもそも形すらない抽象画にデッサンは意味があるの? とかね。みんなもそこ疑問じゃないですか。
伸坊 キュビスムって、アイデアだよね。アイデアっていうか発明(笑)。セザンヌは絵がヘタでテーブルの上の果物がなんか浮いてるように見える。開きなおって「どこが悪い」といろんな視点から描く絵を芸風にした。ある意味、正しいんですよ。人間の目はそういうふうに見ているから。