中学生に「赤ちゃんを抱っこ」する体験をプレゼント

松田さんが世田谷区で始めた活動の一つに、『赤ちゃんを連れて学校に行こう』があります。松田さんが娘さんを連れて学校に行った経験を踏まえたもので、赤ちゃんと接する機会が少ない中学生に、赤ちゃんを抱っこしてもらうという活動です。

「せたがや子育てネット」松田妙子さんがコロナ禍のフードパントリー活動で感じた胸のザワザワと“お互い様”の互助精神【私のウェルネスを探して】_6
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「世田谷区の小中学生の子の約4割は、赤ちゃんを抱っこした経験がないんですよね。中学生が赤ちゃんを知ることは大事ですし、自分より後に生まれてきた子への責任、どんな態度を取ればいいのかを学べる貴重な時間だと思います。子育て中って、親たちもどこか肩身が狭い感じがして、何もできない感じがありますよね。だから、子どもが赤ちゃんの時にしかできないボランティア活動をしませんか?  中学生に赤ちゃんを抱っこする体験をプレゼントしませんか?とお誘いしてやっています。中学生の子が、その町で育つ小さな子を応援してくれる人になって欲しいという思いもありますね。『そうやってあなたも育ってきたんだよ』『覚えていてね』『みんなでやっていこうね』と思いを伝える時間でもあります」

一方、松田さんが懸念していることに赤ちゃんの抱っこの仕方があります。最近は親目線の子育てが中心で、赤ちゃんのことや赤ちゃんの発育を配慮した接し方になっていないのではと不安を募らせています。

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「昔は首が座る前の赤ちゃんは横に寝かせていました。移動がしやすい、両手が使えるなどの理由から、縦抱っこができる商品などが出てきてそれが普通になりました。出かけやすい・動きやすいのはいいですが、赤ちゃんに負担がかかっているのではないかと心配しています。時代が変わったことで、赤ちゃんの環境も大きく変わってきています。現代はスピード感あふれる日常で、録音した会議やサブスクの映画も倍速で見るような時代。でも赤ちゃんが大きく発達する時期には、もっと大人が合わせないといけないと思います。赤ちゃんの時期はいつもよりゆっくり、0.75くらいの速さで過ごし、赤ちゃんのことは赤ちゃんから学ぶ。そうしないと見つけられないものがあるんじゃないでしょうか」

理想は“ワーク・ライフ・コミュニティバランス”

子どもを持つことで、自然と地域との関わりも増えていきます。「何か自分でもできるんじゃないか」「自分でもやってみたい」と思う人もいるかもしれません。松田さんが考える理想は、“ワーク・ライフ・コミュティバランス”です。

「場所なんて借りなくてもいいから、誰かの家で集まろうでいい。私が提案しているのは、“ワーク・ライフ・コミュティバランス”です。コミュニティって、昔はワークやライフの中にもあったし、一体的にあったと思うんですけど、今はバラバラなんですよね。あえてワークとライフに、コミュニティを加えると安定しますよと教えてあげたいんです。子どもが生まれると、産前産後から地域のコミュニティとつながりやすいんです。自分なりのコミュニティとの関わり方、コミュニティづくりをしてもらいたいと思います」

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そのためには、まず思ったことや困ったことを口に出してみる。疑問に思ったことや分からないことは、親しい誰かに投げかけてみる。すると解決策につながる場合もあるのが、コミュニティの力だと言います。

「今は、自分の考えていることを伝えるのが怖い時代じゃないですか。何も言えないというのも分かります。『考え方が違うから』と距離を置かれたらどうしようとか、『意識高い系だね』と言われたり。そこを怖がらずに、まずは口に出してみる。もし意見が違ったとしても、『そうじゃないんじゃない?』という人と一緒に、共有して何かできたらいいと思う。袂を分かつ、違う考えだからさよならでもない。『あなたはそう思っているんだね』と理解して、包摂していかないといけない。それが成熟した人間関係だと思います」

世代やコミュニテイを横断して関わる人を増やしたい

社会は大きな変化の過渡期にあると松田さん。「日本は地域共生社会にシフトしています。少子化でもあり、子育てがマイノリティになりつつあります」。願うのは、世代やコミュニティを横断をして、関わる人を増やしていくこと。そんな人が1人でも増えていくことを望みます。

「おばあちゃんが足が悪くて買い物が大変、母親が入院して困っている、下の子が熱を出してお迎えに行けない。じゃあ、誰かと誰かが集まって、買い物を手伝おう、ボランティアに行こう、お迎えを替わりに行こう。小さなことからできればいいと思います。仕組みづくりも大事だけれど、まずは目の前に起こったことをどうしたらいいか、考えて行動する。それが積み重なって、仕組みができていくと思います。

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それが介護の必要な人なら介護経験者、双子の赤ちゃんが生まれた家庭の手伝いなら双子の赤ちゃんのママが行った方がいい。それが適材適所、総合商社なんですよ。経験は強みにもなるんです。ネットワークや人同士の関係性を考えると、町の中は宝箱だと思っています」

後編では、松田さんがなぜ地域を軸にした支援活動やコミュニティづくりに尽力するようになったのか。子育て以前のターニングポイントを振り返ります。また、さまざまな活動の過程で気付かされた、母親が持つ“才能”“キャリア”について話を聞きます。

松田妙子さんの年表

1969年 東京都渋谷区に生まれる
13歳 中高一貫の女子校に入学
17歳 東京都青少年洋上セミナーに参加
19歳 大学の福祉学科に入学
22歳 大学卒業、青山にある『こどもの城』に勤務
27歳 退職、結婚。夫の都合で三重に転勤。「赤ちゃんサロン」をスタート
29歳 第一子出産
30歳 名古屋に転勤
31歳 住んでいたエリアが東海豪雨に見舞われる。第二子出産、東京に戻る
32歳 世田谷区で産前産後支援活動グループ『アミーゴ』を設立
34歳 『世田谷子育てメッセ』をスタート。第三子出産
35歳 『せたがや子育てネット』を設立
41歳 おでかけひろば『ぶりっじ@roka』(芦花公園)をオープン
49歳 おでかけひろば『まーぶる』(瀬田)をオープン
50歳 おでかけひろば『すぷーん』(深沢)をオープン
51歳 おでかけひろば『おりーぶ』(奥沢) をオープン。『せたがやこどもフードパントリー』をスタート

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撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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