人権やジェンダーは仕事に落とし込めない?

学生たちの授業の感想やレポートを見ていると「社会に出てジェンダーのテーマを就職先で扱うことはできないけど、個人で思いやることはしていこうと思います」といった記述や、「こういう自分の考えを就職した会社で通すのは難しいと思うけど、この課題をウォッチしていきたいと思います」といったような記述を見かけることがあります。

こういうコメントを見かけるたびに「え? なんで扱うことができないの?」と思ってしまいます。もしかしたらそもそもやる気がない人もいるのかもしれませんが、簡単にシャットアウトせずにどうしたら扱えるか考えることはできないでしょうか。

職場で、自分のやりたいことを実現する方法というのは、業種業態で違いはあるでしょうけれども、だいたい以下のような段取りが考えられます。

その「やりたいこと」について調査し、資料を作り、どうにかしてアピールの機会をつかみ、プレゼンし、企画を通す。時にアピールの機会を見つけるのに時間がかかる、数年越しになる、それでもチャンスを窺う、このようなケースも少なくないように思います。

そのやりたいことが、オンライン活用による業務の効率化に関することかもしれないし、新しい広告展開の企画かもしれないし、全く新たな発想による商業施設の展開かもしれません。斬新すぎて、すぐには上司に理解されなくとも、さまざまなデータや手がかりを駆使しながら、なんとか通していくというのが職場で自分のやりたいことを実現する方法ではないでしょうか。

これと、ジェンダーに関わることを職場で取り組む段取りに、どれほど違いがあるでしょう。ジェンダーに関する企画は、今の時代さまざまなところで散見します。ジェンダーよりも遠ざけられがちとも思われる「フェミニズム」に関する事柄も、少なくない分野で扱われています。

躊躇する理由として一つ考えられるのは、「ジェンダー課題に取り組んだら周囲から色眼鏡で見られるのでは(そしてキャリアに関わるのでは)」ということでしょうか。

けれども、今や良くも悪くもSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)が声高に叫ばれ、目標の5番は「ジェンダー平等を実現しよう」となっています。SDGsに絡めて提案することはできるのではないでしょうか。少なくとも、部署などの配置とタイミングを見て、機会を探ることくらいはできるはずです。

もう一つ想定される躊躇の理由として、大上段に構えてしまう、ということも学生たちから感じられます。ジェンダーとか人権とかというと、なんだか真面目にきちんと大掛かりなことをしなければならないのではないか、といった雰囲気が滲み出ていることがあるのです。

私が勤めていた時にやってみた最初の些細な取り組みは、資料の色遣いでした。資料を作る時に、男は青、女は赤、といった固定的なイメージの配色ではなく、オレンジや黄色、紫を使いながら、ぱっと見ただけでは「性別」が分からないような動物のフリー素材を使い、既存の規範をちょっとずらしてみる、ということをやってみました。伝わる人には伝わるものだし、反響があればやる気にもなります。逆に、こういう取り組みは、分からない人には分からないものなので横槍も入りにくいものです(そもそも反対する理由もありませんが)。

当たり前すぎて、些細すぎて、小手先だと怒られそうだと思うかもしれませんが、最初の一歩として、「資料の色遣い」など、地道にできることはあるのです。