冷戦の産物による分断が根本的課題

その現実に基づき構築されてきたのが朝鮮半島の紛争構造である。それを整理すれば、次のように言うことができる。

朝鮮半島では、いまだに戦争が終わっていないという現実において、

①対決関係を前提とする体制が韓国・北朝鮮の双方でともに築かれ、これに基づいて
②排他的な統一が追求される状況が成立し、
③その状況を周辺国が補完するとともに、
④過去の遺物的な取り決め(朝鮮戦争の休戦協定)も作用して、何とか平和が維持されている、

という状況が継続しているのである。

このような紛争構造と、そのもとでの不確実な平和状態という事態の根本的な解決に対処しようとする大きな動きが2018年に起こった。それが3度の南北首脳会談(4月27日、板門店。5月26日、板門店。9月18~20日、平壌など)と、史上初となる米朝首脳会談(6月12日、シンガポール・セントーサ島)の開催である。

また、そこではいわゆる「板門店宣言」(4月27日)、「米朝共同声明」(6月12日)、「9月平壌共同宣言」(9月19日) 及び「板門店宣言軍事分野履行合意書」(9月19日)がそれぞれ合意に至っている。

これら一連の会談や合意文書の発表は、直接的にはいわゆる「北朝鮮の核問題」の解決を目標に行われた。しかし、たとえば「板門店宣言」の前文に記載されているように、より本質的には「冷戦の産物である長年の分断と対決を一日も早く終息させ、民族的和解と平和繁栄の新しい時代を果敢に切り開く」ために行われたのである。

これは「米朝共同声明」にも、「何十年にもわたる緊張状態や敵対関係を克服し、新たな未来を切り開く」と記されている。つまり、冷戦終結後に発生した北朝鮮の核兵器・ミサイル開発をめぐる問題の原因は、冷戦を反映した分断と対立に始まり、そこにまで踏み込まねばならないという本質的な問題意識はすべての文書において通底している。

さらにかみ砕いて言えば、「北朝鮮の核問題」の解決を目指し、北朝鮮及び韓国・米国が2018年に着手しようとしていたのは、対症療法――北朝鮮の核放棄をいかに進めるか――ではなく、原因療法――歴史的に構築された紛争構造の解体――であったということである。