もはや円を買う主体が見当たらない

野球では、リードしているチームが最終回に、勝利を確定させるために登板させる投手をクローザーと呼ぶ。いわば抑えの切り札だ。それでいうと今回の円買い介入は試合の前半で、しかも負けている場面でクローザーを投入したようなものだから、たしかにサプライズだ。

しかし、その場は抑えられても、すでに切り札を使ってしまったわけだから、イニングが進めばどんどん苦しい展開になる。

そもそもの問題は、守備うんぬんではなく、得点能力の低さなのだ。外国為替市場に対する日銀単独の政策介入は、もはや円を買う主体が日本政府の他に見当たらないという窮地を明らかにしたといえるだろう。

円が買われない理由は簡単である。日本経済の得点能力=成長に対する市場の期待が乏しいからだ。世界の中銀が金利引き上げへと動くなかで、日銀だけが利上げできないのは日本の景気が回復せず、積みあがった財政赤字の利払い負担増加を恐れているからに他ならない。

これだけ巨額の財政支出を繰り出してきたにもかかわらず、なぜ、日本は景気が足踏みし、経済成長に見通しが立たないのか――。

9月26日の円相場は再び144円台までに下落してしまった。円買い介入サプライズでつかの間に為替投機を回避できたとしても、今の日本はこうした根本的な問題を解決しないことには、浮上の見込みはない。そのことをマーケットは冷たく教えている。

文/金俊行