2度目、3度目のサプライズはない
では、投機筋はなぜ、政府・日銀の円買い介入を警戒しなかったのか。それを実行するにはかなりの困難が伴い、しかも政策的効果がさほど期待できないからだ。
まず、日本単独の介入とならざるをえない。インフレ抑制に血眼になっているアメリカにとって、ドル高は輸入価格の低下となり、プラス材料だ。円高ドル安を誘導する政府・日銀の政策介入にアメリカが協調するはずがない。
次に、円買い介入の原資が限られている。円買い介入は日本政府が保有する外貨準備を売って円を買う。日本の外貨準備保有額は中国に次ぐ世界第2位で、およそ180兆円にもなる。ただ、その大半は米国債で運用されている。これを売却してドルに換金するにはNY連銀に売却手続きを委託するなど、アメリカ当局の理解と協力が欠かせない。
そうなると、財務省や日銀が機動的に介入資金として利用できる外貨準備は預金として保有する20兆円ほどとなる。今回の介入規模は日銀関係者によれば、「数兆円単位」だという。日本の外国為替市場取引額は1日当たり40兆円以上にもなる。その巨額さを考えると、「数兆円単位」の円買い介入では、抜群のタイミングで足を引っかけないと相手(市場)は転ばない。
かりに一度うまくいったとしても、FRBは年内に予定される残り2回の会合で、合計1.25%利上げするという見通しだ。欧州中央銀行(ECB)の追加利上げも間違いないだろう。サプライズは一度だから効果的なのだ。つまり、政府・日銀にとって2度目、3度目のサプライズはもうない。
円買い介入の政策的矛盾
為替レートは外国為替市場価格だから、ある程度の期間をおけば、異なる通貨間の需要と供給によって決まる。アメリカが金融引き締めを加速させればドル供給が減り、高金利を材料にドル買いを呼び、ドル高になる。日銀が金融緩和を維持すれば円の供給が増え、それに見合う需要がなければ、円は安くなる。
日本の貿易赤字は急増している。8月は2.8兆円でこれは単月では過去最大で、1~8月通算では12.2兆円にも膨れ上がってしまった。貿易代金支払いのためには円を売ってドルを買わなければならない。実需面で見ても円の需要は乏しく、当然、円は安くなる。
政府・日銀の円買い介入は、マーケットに真っ向から逆らう動きだ。しかも、一方で金融緩和を継続し(円供給増大)、もう一方で円買い介入(円需要創出)というのは政策的に矛盾している。こうした市場と政策との歪み、政策方向の歪みこそ、投機の餌食となりやすい。