新作映画は『愛する人に伝える言葉』
カトリーヌ・ドヌーヴという女優にどのようなイメージを持っているだろうか? 最近だと、是枝博和監督の『真実』(2019)で、彼女自身を彷彿とさせるフランスの国民的大女優とその娘(ジュリエット・ビノシュ)との間の長年の確執を軸に、常に観客の求める“大女優”像を私生活でも演じ続ける女性という難役に扮して話題となった。
そのドヌーヴが、新作『愛する人に伝える言葉』(2021)でまたしても素晴らしい演技を披露し、伝説に新たなる1ページを書き加えた。
ドヌーヴの役どころは、息子(ブノワ・マジメル)を愛するがあまり、妊娠していたその恋人を捨てさせた過去がある母親。演劇講師として独身を貫いている息子は、母に複雑な感情を持ち続けてきたが、母は息子の人生にとって最善の選択をアシストしたと信じている。
だが、息子が癌で余命いくばくもないことがわかったとき、母は自分のしたことが、息子を失いたくないためのエゴに過ぎなかったのではないかと自問する。
こういう複雑な感情を持ち、子どもを支配しようとする母親役は、前作『真実』での役とも繫がる。そういった心の機微を説得力を持って演じ切ることができるのは、まさにドヌーヴ自身が女優として、女性として積み重ねてきた65年に及ぶキャリアがあってこその到達点だろう。