中国政治の凶暴な本質

橋爪 この思想改造プロジェクトは今、着々と進行しつつあります。

内モンゴルでは2020年9月から、従来モンゴル語で授業を行なっていたモンゴル系公立学校で、モンゴル語での授業を禁止し、中国語(漢語)で授業を行なうように決定しました。モンゴル人から言語を奪うための決定です。

これもウイグルと並行する政策だと思います。どう並行しているかと言うと、モンゴルは北と南に分かれていて、北はモンゴルという国になっている。南は内モンゴルとして中国の一部にされてしまっている。モンゴルは本来、ひとつの民族ですから、民族自決の原則からいえば、モンゴルと内モンゴルが合わさってモンゴル国になるはずです。

それは、トルコ系の人びとが東トルキスタン(ウイグル)と残りの地域とで合わさって、トルコ系の共和国をつくるのが自然なのと、同様のことですね。でもそこに中国の国境線があって、その南側の内モンゴル人を中国人につくり替えようとしている。同じプロジェクトなんですよ。

これには中華人民共和国と中国共産党の存在理由がかかっている。存在理由がかかっているから絶対にやるはずです。

このプロジェクトは、台湾の解放でピリオドを打つ。台湾の解放は、文字どおり中国とアメリカが正面衝突する話です。アメリカと正面衝突しようとこのプロジェクトは実行しなければならないというのが、中国の指導部が今、考えていることだと思います。

この話の最後はそこに行き着くと思いますが、その前に、新疆ウイグルの苛烈な政策の本質をしっかりと押さえておきましょう。

中国の政治には、抗争がつきものです。その抗争が、統治者の間の争いにとどまっていれば、人民に被害は及ばない。でも、このまま中国がこの苛烈な政策を強行していくと、場合によっては、人民もこの紛争の中に巻き込まれて、大きな損害を被ると考えられます。

例その1。統一中国ができ上がる前の戦国時代。いろいろな国、諸侯が争っていました。国が7つぐらいあって戦争を繰り返している状態ですから、これは内戦ではなく、敵の軍隊は外国軍なんですね。外国軍と戦って、勝てば数十万人の兵士を捕虜にしたりする。

趙の国(周代・春秋時代・戦国時代にわたって存在した国。戦国七雄のひとつ)だったと思うが、戦いに敗れてどうなったかというと、捕虜になった数十万人の兵士らにまず自分で穴を掘らせる。穴を掘らせ、その中に入らせて、上から土をかける。こうやって数十万人をすべて生き埋めにしてしまった。趙という国を二度と立ち上がらないようにするためのジェノサイドのやり方です。戦闘員が全員死んでしまうので、まだ村にいる非戦闘員はもう抵抗できない。そうしてだんだん同化が進んでいく。こういうことが中国の歴史ではよく起こるのです。

例その2。王朝が交代するときによく農民反乱が起こります。農民反乱が起こると無秩序状態になる。そんなときによく起こるのは、地主への襲撃です。借用証書が焼き捨てられ、土地の権利書が破棄され、地主はたいてい殺害されてしまうのです。それで、農民らは小作地を取り戻す。次の王朝がそれを正当化する。これがずっと繰り返されているのですね。多くの人民の犠牲の上に次の政権が成り立つというのが、中国の標準的なやり方なのです。

太平天国の乱は、キリスト教系新宗教の反乱ですが、1864年に鎮圧されるまでの13年間で、人民の死亡者は5000万人とも言われています。単一の事件でこれだけの人数が死ぬことはそうそうありえないわけです。

その後、抗日戦争、国共内戦があり、やはり数千万人の犠牲者が出ました。建国後も、反右派闘争などがあった。大躍進でも数千万人が亡くなっています。文化大革命でも数千万人の犠牲が出ている。そういうことは、中国では時々起こるし、中国共産党政権の下でも数千万人単位の人民の被害が少なくとも2回起こっているわけです。

反乱や革命が起こるたびに、膨大な数の人民が巻き添えになる。ウイグル問題を考えるときも、中国の政治メカニズムのそういう凶暴な本質があることを頭の隅に入れておいたほうがいいと思います。