地方自治体も隠ぺいとウソの共犯者に

――自治体が加担してしまう、一緒になって隠すというのは、たとえばどういうことでしょうか。

尾松 隠すっていうと、日野さんの本で言えば、避難計画の中で、「体育館の面積を2平方メートルで割って機械的に避難所の収容人数を割り出しているだけ」という実態があるんですが、自治体はそのことを明らかにしていません。それを暴かれてしまうと、その部分だけは公開するけれど、ほかで同じような事例があっても公表しないんですよね。

日野 一度でも秘密を共有してしまうと、地方自治体は一緒に隠さざるを得なくなります。私の本の第七章で、非公開の会議で、国の担当者が「絵に描いた餅」の避難計画に「お墨つき」を与えている場面があります。2014年に避難先となる埼玉や千葉などの担当者を集めて、「今から避難計画をつくりますよ」「今から茨城でもやったような避難所の調査をしますので協力してください」と求めた会議です。

そこで、埼玉県の担当者が「この避難所の学校は駐車場の台数でいったら50人ぐらいしか入らないけど、体育館の面積だけで機械的に計算したら1000人ぐらい入る。この場合はどっちにするのか」と尋ねたところ、内閣府と茨城県の担当者は「機械的にやってください」と答えるわけです。みんな車で来る想定ですから、駐車場に止められない人は入れなくなるので、全く無意味なんですが。でも、そこで一旦受け入れて、秘密を共有してしまったら、共犯者にならざるを得ない。そうやって共犯者がどんどん増えていくんです。

――その後は秘密も増えていって、さらに告発ができないようになっていく。

日野 そうです。第五章で、避難計画を策定する茨城県ひたちなか市の担当者を問い詰めるシーンがあります。受け入れ先の茨城県小美玉市というところが当初2万人ほどの収容人数だったのが、体育館のトイレや玄関など避難に使えない面積を取り除いて調べ直したら、1万人ぐらい減ってしまった。ひたちなか市の担当者もそれを知っているわけです。しかし、「何で1万人も減ったんですか、半分になったんですか」って尋ねたら、「学校統廃合じゃないですかね」とウソを答えるわけです。

――学校統廃合? 学校が減ったと。

日野 1つの小学校の体育館で受け入れられる人数って大体500人ぐらいです。「ということは、20校も減ったんですか?」と追及したら、担当者は渋々といった様子で、過大算定だったことを認めました。過大算定がバレないよう、収容人数が減った原因を学校統廃合とする公式見解が自治体間で共有されているとしか思えませんでした。そうやって隠ぺいとウソが共有されていくんだな、と。

恣意的に誘導されたアジェンダ・セッティング

尾松 話を戻すと、原発避難計画と再稼働の是非という議論の中で、「実際にそのルートを車で走ってみたけど、渋滞が起きたら避難できないから再稼働反対だ」という闘い方もあると思うんですけれど、それだと、「避難の実効性が現実的に担保できるのか」という議論で闘わせられてしまう。これは、住民の危機意識を喚起する意味では重要な指摘です。でもそれは再稼働したい側からすると、痛くもかゆくもないわけです。「絵に描いた餅」だということは、彼らには最初から分かっているので。そこで「絵に描いた餅ではないか、実効性がないじゃないか」と追及しても、相手は「実効性を担保していきます、これからしっかりした計画を作るよう頑張ります」と答えるだけです。そんな議論をこの10年間エンドレスにやってきたわけです。

――思うつぼなんですね。

尾松 実際避難計画で一番恐ろしいのは、もしかしたら「ここで渋滞を起こすような計画がある」ということよりも、不可能と知りながら、突っ込まれないように、秘密会議で辻褄を合わせていくような文化が広域自治体まで拡大しているということです。職員一人ひとりはエネルギー政策の考え方がいろいろかもしれないけれど、自分が追及されないよう、原発を再稼働したい人たちに有利になる方向に誘導されていく。こんな恐ろしいことを警告したのが日野さんの調査報道だと思うんですよ。

アジェンダ・セッティング(議題設定)を誘導されてしまうというのは、廃炉の問題でも見られます。「福島第一原発が40年で廃炉できるわけない、あれはフィクションだ」という批判は、もう何年も前から言われています。問題はそもそも「廃炉とは何か」ということを東電も政府も定義しないまま来ていることです。スリーマイルやチェルノブイリでは、「廃炉の完了とはこういう状態です、これを達成するのは事業者の義務である」ということを法的に定義していて、「何年かかるか分からないけど、そこまで達成しなければならない」という制度になっています。日本は「廃炉とは何なのか、ここまでしたら廃炉達成です」という法規定がない。だからいろんな技術者が出てきて、「東電が40年で廃炉とか言っているけど、そんなの技術的に無理だ」って言っても、東電も政府も痛くもかゆくもない。そんなのできっこないって自分たちで分かっているし、「ここまでやります」と一言も法的には約束してないんですから。