打席で凄みが感じられない理由
ならばいかに克服したらいいのか。答えは「内角高めは捨てて、打てる球に集中すること」だ。前述のようにバットを出してもなかなかヒットにはしづらいし、なまじ攻略しようとするとフォームを崩すことにもなる。打てないものは捨てる。この割り切りこそ、打者にとって大事なことなのだ。
だが今の佐藤に、それを理解しろというのは酷かもしれない。4番として、自分が打てばチームの勝利に手が届く。だからこそホームランが欲しい。そんな感情が渦巻く中で打席に立っているのだろうから。
ちなみに開幕9試合、全39打席でホームランにできそうなボールはほとんどなかった。10安打したうち、内角球をヒットにできたのは3月31日の広島戦、5回の第3打席に玉村昇悟投手が投じたストレートをライト線に弾き返して二塁打を記録した打席だけ。
それ以外の安打は真ん中低めのフォークを拾ったものか、レフト方向にしかヒットにできない外角よりのストレートばかりだった。ホームランにできそうなボールがほとんどこないのだから、これではストレスも溜まる。
ただ、技術的な問題や配球への対策以前に、今の佐藤を見ていて気になることがある。それは打席で凄味を感じられなくなっていることだ。
佐藤の持ち味は、言わずとしれた破壊力。強くボールを叩き、スタンド上段に運ぶパワーとスケールは球界屈指のものだ。ところが今季はそうした凄味が打席から感じられない。これは打席での佐藤の姿勢にあるのではないかと私は思う。
昨シーズン終盤、佐藤は59打席連続ノーヒットという、野手としての日本記録を作るほど、打てない時期を過ごした。いかに新人とはいえ打者としては屈辱だ。二度と同じような悔しく辛い思いはしたくないだろう。
そうした想いから空振りを恐れ、スイングがおとなしくなっているのではないか。今季、ヒットはそこそこ出ていても、長打が少ないのはこれと無関係ではあるまい。昨年、プロの怖さを知ったことで、皮肉にも今、佐藤自身の怖さが失せているように見える。
開幕10戦目となる4月5日のDeNA戦では、初回の第1打席でライトスタンドぎりぎりのゾーンにようやく今季第1号を放った。コースは本稿で指摘している内角高め。ただ、打球自体は詰まり気味で、本人としても決して納得のいく当たりではなかっただろう。
とはいえホームランには変わらない。1本出たことで気分良く、前向きな気持ちになれたはずで、2本目、3本目もそう遠くはないだろう。
佐藤が打って、チームもようやく初勝利をあげた。これで今後は地に足をつけて戦えることだろう。あとは持ち味である凄味が戻ってくるのを待つだけだ。
写真/共同通信社